NetEaseの『Marvel Rivals』レイオフは氷山の一角。名越スタジオにも及ぶ海外投資の縮小の波

中国の大手ゲーム企業NetEaseが海外スタジオから手を引く動きを加速

中国の大手ゲームパブリッシャーであるNetEaseは先日、人気ゲーム『Marvel Rivals』のシアトル開発スタジオでスタッフの削減を行いました。『Marvel Rivals』は2024年12月のリリース以来、わずか数か月で4,000万人以上のプレイヤーを獲得し、NetEaseに2024年第4四半期だけで29億ドルのゲーム/サービス収益をもたらした(NetEase Q4 2024決算報告)大ヒット作です。しかし、そんな成功を収めたプロジェクトにもかかわらず、なぜこのような決断が下されたのでしょうか?その背景には、NetEaseのCEOであるWilliam Ding氏による大規模なリストラと、同社が海外投資から撤退する戦略があることが、Bloombergの報道によって明らかになりました。

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『Marvel Rivals』レイオフの真相とその影響

『Marvel Rivals』は、マーベルコミックのスーパーヒーローを題材にしたオンライン対戦ゲームで、リリース直後から世界中で注目を集めました。しかし、2025年2月にシアトルの開発チームが突然のレイオフに直面。NetEaseはこの動きを「組織的な理由と開発効率の最適化のため」と説明していますが、具体的な削減人数は公表されていません。この決定は、ゲーム業界全体が驚きをもって受け止めた出来事でした。なぜなら、『Marvel Rivals』はリリースからわずか2か月で大きな成功を収めていたからです。

Bloombergによると、このレイオフは単なる一時的な措置ではなく、NetEaseが進めているより広範な戦略の一環です。具体的には、同社の創業者でありCEOのWilliam Ding氏が、海外スタジオへの投資を見直し、数百人の雇用を削減し、いくつかのスタジオを閉鎖する方針を打ち出しているとされています。この動きは、北米だけでなく日本やその他の地域にも波及しており、ゲーム業界全体に影響を与えています。

William Dingの決断。ディズニーとの契約を巡る葛藤

興味深いことに、William Ding氏は「Marvel Rivals」の開発中止を一度検討したことがあると報じられています。その理由は、Disneyとのライセンス契約にかかる費用に難色を示したためです。マーベルのスーパーヒーローやヴィランを使用するためには高額なライセンス料が必要でしたが、Ding氏はこれを支払う代わりに、NetEaseのアーティストが独自のヒーローデザインを作成することを提案したとされています。しかし、この話はNetEase側によって否定されており、真相は不明のままです。

結局、『Marvel Rivals』はリリースされ、大成功を収めましたが、このエピソードはDing氏が利益追求にどれだけシビアな姿勢を取っているかを示しています。彼の経営方針は、より収益性の高い「エバーグリーン(長期的に安定した収入を生む)」タイトルや、プレイヤーの課金を促す大衆向けゲームに注力することにシフトしているとされ、その結果、海外スタジオへの依存を減らす方向に動いているのです。

海外スタジオからの撤退。閉鎖と資金引き揚げの連鎖

過去1年間、NetEaseは中国国外の複数のスタジオから手を引いてきました。以下はその具体例です。

  • Worlds Untold(カナダ・バンクーバー):元BioWareクリエイティブディレクターのMac Walters氏が率いるこのスタジオは、NetEaseの支援を受けて設立されましたが、資金が打ち切られ、現在は活動を一時停止しています。
  • Jar of Sparks(アメリカ・シアトル):2022年にXboxのベテランJerry Hook氏によって設立されたこのスタジオも、NetEaseの支援を失い、活動が停滞しています。
  • 桜花スタジオ(日本・東京):スクウェア・エニックスの『聖剣伝説 Visions of Mana』を開発したこのスタジオは、2024年8月のリリース直後にスタッフの大幅な削減が行われ、その後閉鎖されました。

さらに、Bloombergの報道によれば、Ding氏は日本チームにも厳しい姿勢を示しており、特に元「龍が如くスタジオ」代表の名越稔洋氏が率いる名越スタジオに対しては、新作への追加資金投入や開発時間の延長を制限し、マーケティングやプロモーションの予定もないとされています。

Game Fileの追報:海外チームの大半が影響を受ける可能性

Bloombergの報道に続き、Game Fileはさらに衝撃的な情報を伝えました。NetEaseは「海外チームの大多数」から撤退する計画を立てており、これが十数以上のスタジオに影響を及ぼす可能性があるというのです。具体的には、以下のようなNetEaseが近年設立または買収したスタジオが対象に含まれる可能性があります。

  • T-Minus Zero Entertainment:元BioWare Austin副社長Rich Vogel氏が設立。
  • Fantastic Pixel Castle:World of WarcraftやLeague of LegendsのベテランデザイナーGreg Street氏が手掛ける「現代化されたファンタジーMMORPG」を開発中。
  • Grasshopper Manufacture(2021年買収):日本のゲームクリエイターSuda51(須田剛一氏)で知られるスタジオ。
  • Quantic Dream(2022年買収):「Detroit: Become Human」などで有名なフランスのスタジオ。

これらのスタジオがどのように影響を受けるのかはまだ不明ですが、NetEaseの海外撤退が進めば、各スタジオのプロジェクトが中止または縮小されるリスクがあります。

中国国内でも縮小:2026年は新作なし?

海外だけでなく、中国国内のNetEaseスタジオにも影響が及んでいます。Ding氏は収益性の低いプロジェクトを見直し、いくつかのチームのプロジェクトをキャンセルしたとされています。その削減規模は非常に大きく、2026年に中国のNetEaseスタジオから主要な新作がリリースされない可能性すらあるとBloombergは指摘しています。この方針転換は、Ding氏が「年数百億ドルの収益を生み出さないプロジェクト」には興味がないとスタッフに伝えたとされる発言からも裏付けられています。

ゲーム業界全体の不確実性とNetEaseの今後

NetEaseの動きは、ゲーム業界全体が直面している不確実性を象徴しています。近年、多くの企業が大規模なレイオフやスタジオ閉鎖を経験しており、成功を収めたゲームであっても開発者の雇用が保証されない状況が続いています。NetEaseの場合、海外投資の縮小は戦略的な判断に基づくものですが、これが長期的な成長にどう影響するかは未知数です。NetEase傘下のスタジオで働くクリエイターや、彼らの作品を楽しみにしていたプレイヤーにとっては、厳しい現実が待っているかもしれません。

情報元:Polygon

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