2025年9月25日に発売されたホラーゲーム『サイレントヒルf』が、発売からたったの2日間で累計販売本数100万本を突破し、メタスコアでも86点という高い評価を獲得しました。13年ぶりとなるシリーズのメインタイトルとして、見事な復活を遂げた形です。この成功の裏側には、IPの伝統を深くリスペクトしつつ、独自のゲーム体験を追求した開発チームの確固たる哲学がありました。
13年ぶりの復活、外注への懸念を乗り越えミリオンセラー達成
本作は、2012年の『サイレントヒル ダウンプア』以来、実に13年ぶりとなるシリーズのナンバリングに準ずるメインタイトルです。開発はIPを所有するコナミではなく、外部スタジオのネオバーズ・エンターテインメントが担当。この体制が発表された当初は、長年のファンからシリーズ特有の雰囲気や世界観が維持されるのか、懸念の声も上がっていました。
しかし、そうした不安を払拭するように、『サイレントヒルf』は批評的にも商業的にも大きな成功を収めました。この快挙の背景には何があったのか。2025年10月30日と31日に韓国は板橋で開催のイベント「Gyeonggi Game Connect 2025」に登壇したクリエイティブディレクターのAl Yang氏が、開発における哲学と具体的な手法について語りました。
成功の鍵は「節制の美」と伝統への敬意
Al Yang氏は、開発チーム内で最も重要視したのが、ファンが求める「サイレントヒルらしさ」をいかに維持するかだったと語ります。その上で、安易に流行のシステムを取り入れることを良しとしない「節制の美」を貫いたと強調。あくまでシリーズの核を大切にしながら、独自のプレイ体験を創出するための議論が重ねられました。
緊張感を生む3つのメカニクス
開発チームは、サイレントヒル特有の恐怖感を現代的に表現するため、3つの主要なゲームメカニクスを導入しました。そのひとつが、敵とプレイヤーの距離をうまく調節して緊張感を生み出す「距離値」というシステムです。これに、装備の破損や弾薬の欠乏が常に危機感を抱かせる「耐久性」、そして行動に制限をかける「スタミナ」が組み合わさることで、プレイヤーは常にリソースと敵との間合いを管理する戦略的な判断を迫られ、持続的なプレッシャーの中で探索を進めることになります。
竜騎士07氏の脚本を忠実にゲームへ
本作の物語体験の中核を担うのが、『ひぐらしのなく頃に』などで知られるシナリオライター竜騎士07氏が手掛けた脚本です。開発チームは、この完成度の高い脚本をいかに「忠実に」ゲームへ反映させるかに注力したと語ります。そして脚本をベースに、敵の不気味な描写や戦闘シチュエーションの演出、さらには探索を進める中で情報が記録されていく「雛子の手帳」といった要素に、その意図を落とし込んでいきました。
また、過去作への敬意は背景描写にも色濃く表れています。シリーズを象徴する霧の中を歩くシーンや、『サイレントヒル4 ザ・ルーム』の雰囲気を彷彿とさせる家屋の造形など、随所に過去作へのオマージュを散りばめました。これらはすべて、本作がサイレントヒルシリーズの一員としてファンに認められるための、意図的なデザインであったとYang氏は語ります。
外注開発を成功に導く「選択と集中」の哲学
Yang氏は、優れたゲームデザインだけでなく、外注開発を成功させるプロジェクトマネジメントの重要性についても言及しました。特にIP所有者との納期調整が前提となる外注開発では、本格的な開発が始まる前の「プリプロダクション」段階で、ゲームの核となる要素を徹底的に固めることが、後の手戻りを防ぎ、プロジェクトの成否を分けると強調します。
さらに、チーム内のアイデア選定においては、「各々が最高だと考えるアイデア」ではなく「開発中のゲームにとって最も適したアイデア」を選ぶ視点が不可欠だと述べました。「チョコレートとペパロニピザはそれぞれ美味しいが、混ぜるとひどい味になる」というユニークな例えを使い、各メンバーが持つ最善のアイデアが、必ずしもプロジェクト全体の方向性と一致するとは限らないと説明。多様な意見が出た際に、どの意見を採用し、不採用のメンバーをどう納得させるか、迅速に判断しチームを導くことの重要性を説き、講演を締めくくりました。
まとめ
- 13年ぶりの『サイレントヒル』新作が、外部開発の懸念を越え100万本を達成。
- 成功の鍵は、IPの伝統を尊重する「節制の美」と、独自の恐怖演出にあった。
- 外注開発では、初期計画の徹底と「ゲームにとっての最適」を選ぶ判断力が重要。
- 本作の成功事例は、大規模IPを扱う今後のゲーム開発における一つの指針となるでしょう。




