インターネット上で議論を呼んでいる『Grand Theft Auto VI』(以下、GTA6)の100ドル(2025年12月下旬のレートで約1万5,550〜1万5,780円程度)価格説について、元Rockstar NorthテクニカルディレクターのObbe Vermeij氏が、ゲーム制作の仕組み上、その可能性は低いとの見方を示しました。同氏は、現代のAAA開発が陥っている「巨額予算による保守化」という課題を指摘し、AIによる自動化がその停滞を打破する鍵になると予測しています。
2026年11月19日に発売が予定されている最新作『GTA6』を巡り、Vermeij氏は海外メディアGamesHubのインタビューにおいて、販売戦略の妥当性や、開発現場がどう変わってしまったのかを分析しました。
まずはユーザー数を広げ、発売後の継続収益を狙う
Vermeij氏は、価格設定が100ドルに達するという噂を「インターネット側の憶測」と一蹴しました。同氏の分析によれば、Rockstarの戦略は初期価格の引き上げではなく、ユーザーベースの最大化にあります。
これは、発売後の「バックエンド(発売後の収益)」により、数年間にわたって収益を上げるモデルを前提としています。同氏は、初期価格を100ドルへ引き上げて参入障壁を作るよりも、通常の価格帯(regular priced)を維持し、最大のユーザー数を確保してオンライン要素(online component)へ誘導する方が、長期的な収益構造において合理的であるとの見通しを述べています。
幻の『GTA: Tokyo』――巨額投資が強いる「知っている舞台」の再生産
実はGTAシリーズでも、アメリカ国外を舞台にする計画が現実味を帯びて進んでいたことがありました。Vermeij氏によれば、当時『GTA: Tokyo』のプロジェクトが存在し、日本の外部スタジオへ開発コードを引き渡す直前まで進んでいたといいます。
しかし、最終的にこの計画は見送られました。数十億ドル規模の資金が動く現代のAAAプロジェクトにおいて、パブリッシャーは「誰もがイメージを共有でき、すでに成功が約束されている舞台」を選択する強烈な重圧に晒されます。Vermeij氏は、巨額の投資が必要になればなるほど、不確実な異国(東京、モスクワ、イスタンブール等)を避け、「知っている舞台をまた選ぶ(let’s do what we know again)」という保守的なループに陥りやすくなると、構造的な停滞を指摘しています。
1,500人の開発体制とAIによる「構造改革」の展望
同氏は『GTA6』が史上最高額の開発費を投じた作品になると推測する一方で、現在の肥大化した開発体制についても言及しました。1,500人規模(同氏推測)に達した現代の現場では、制作者がクリエイティビティを発揮しにくい、ルーチンワークをこなすだけの一部品のような存在になりがちで、『Vice City』を実質6〜7か月で作り上げた当時の小規模チームにあった「個人のアイデアが即座に反映される環境」が希釈されていると示唆しています。
この停滞を解消する手段として、同氏はAIやプロシージャル生成技術による自動化を挙げています。アニメーションのリギングや衝突判定用メッシュ(collision mesh)の修正といった、開発コストの大きな割合を占める単調作業をAIが肩代わりすることで、全体のコスト抑制が可能になります。同氏は、これによって開発のハードルが下がり、パブリッシャーが再びリスクを取ってニッチな市場や実験的なテーマに挑戦できる環境が戻る可能性を展望しています。
Vermeij氏は現在、個人の感性をそのまま反映できるインディーゲーム『Plentiful』の制作に没頭しています。2026年11月、『GTA6』がどのような価格で発売され、巨大化した開発モデルにどのような答えを出すのか。業界の未来を占う試金石となりそうです。



