Enhance GamesのPS4向け新作タイトル『HUMANITY』が発表されました。PSVRにも対応し、2020年リリース予定です。
本作は、Webやインターフェースのデザイナーとして知られる中村勇吾氏のスタジオ tha ltd. が開発を手掛ける群衆シミュレーション。「我々の外側にいる知性からみて、私たち人間や人間社会はどのように映っているだろう?そして彼らは、人間たちの集団行動をどのようにシミュレートするだろう?」という観点から開発された作品とのことです。
『HUMANITY』アナウンストレーラー
超越者からみた「人間らしさ」とは?
著者:中村勇吾 tha ltd.
人間からみた「鳥らしさ」
私は鳥を見るのが好きです。特に、鳥の群れにとても惹かれます。近所を散歩しながら空を見上げると、たまにスズメの集団に出くわすことがあります。そんなときは思わず立ち止まって、彼らの動きをじっと目で追い続けてしまいます。( 興味ある方は是非「Bird Flocking」で検索してみてください)
このような、美しく有機的に運動する群れの形状や、密度分布の変化などを目の当たりにしてしまうと、鳥が形成している集団社会に宿る、何らかの全体意思のようなものの存在を感じてしまわずにはいられません。
なぜ鳥たちがこのような神秘的な集団行動パターンを形成するのか?―この疑問にこれまで多くの生物学者がさまざまな見解を寄せ合ってきたらしいのですが、決定的ともいえる説を提出したのは、クレイグ・レイノルズという、生物学とは全く畑違いの、コンピューターグラフィックスの専門家でした。彼によると、群れの中の一つの鳥に着目し、そこに以下の3つのシンプルな原理を適用すると、全体として驚くほど「鳥らしい」現象が生まれます。
1.自分の周囲の集団に近づきたい(凝集)
2.彼らが進んでいる方向と同じ方向に進みたい(整列)
3.他者とあまり近づきすぎるとぶつかりそうなので離れたい(分離)
つまり、鳥の集団行動は、彼らの全体意思によってではなく、あくまで個体ひとつひとつの本能的な行動の連鎖の結果として生まれている、ということです。ボイドと呼ばれるこのアルゴリズムは、その原理のシンプルさと、結果として生まれる現象の豊かさによって好評を博し、さまざまなゲームやCGなどで広く使われています。(是非「ボイド」で検索を)
そして私がなによりこのボイドに惹かれる点は、それが、鳥を研究する生物学者の観察や実験によってではなく、専門領域の外側の人間の、ある種の「直感」によって生まれたものである、という点です。先に挙げた鳥の動きの3つの原則は、我々人間にとっても「わかるわかる」「そうそう」という感じの、極めて直感的に理解しやすいものばかりです。
つまりこれは、人間が、人間の視点から捉えた「鳥らしさ」である、と言えます。
実際の鳥が何に突き動かされているかという真実は、自分が鳥になってみないことには解りませんし、ひょっとして全然違うことを考えているかもしれません。ただ、鳥たちの社会の外側にいる、鳥を超えた知性を備える(と少なくとも信じている)人間が捉えた「鳥とはこのような性質のものではないか」という解釈のひとつがこのボイドである、ということです。
超越者からみた「人間らしさ」
『HUMANITY』というゲームは、この「人間からみた鳥らしさ」という構図をそのままスライドし、では「超越者からみた人間らしさ」とはどのようなものだろう?といった着想が原点となっています。
「超越者」というのは、神、異星人、未来のAI・・・など、皆さんのご想像にお任せしますが、このような我々の外側にいる知性からみて、私たち人間や人間社会はどのように映っているだろう? そして彼らは、人間たちの集団行動をどのようにシミュレートするだろう?・・・といったことを考え始めました。まずは手始めに、さまざまな人間の集団行動の事例について調査・収集しはじめました。幸い、私の住む東京はとにかく混雑していて、駅や道路、イベント会場など、至る所でユニークな集団行動をたくさん発見することが出来ます。
また、観察する視野をもっと拡げると、人間集団の引き起こす現象は無数にあります。
例えば今、SNSで頻繁に生まれている「インフルエンサー」や「炎上」などの現象から、彼らは人間の中に何を見出すのでしょうか? 生まれては打倒され、打倒されてはまた生まれる独裁者たちから、彼らは何を見出すのでしょうか? 永遠に繰り返すかのように見える戦争と平和の歴史から、彼らは何を見出すのでしょうか?
『HUMANITY』
このようにして、彼ら「超越者」が観察し、見出し、つくり出すであろう「人間集団シミュレーター」とはいかなるものだろう?と想像しはじめると考えが止まらなくなり、今から3年前のある日、ついにこれを自分たちでつくりはじめてしまいました。どのようなものになるか、何も決まってないままのスタートでしたが、タイトルは迷わず最初から『HUMANITY』でした。
超越者の創る人間集団シミュレーター、自ら設定した目標ながらも、いささか誇大妄想が過ぎると感じます。また残念ながら私は超越者どころか、人間社会の真っ只中で溺れる1人のおっさんに過ぎないので、あくまでそれを夢想することしか出来ず、日々もどかしい思いばかりをしています。
しかし最終的には、彼ら超越者からみても「そうそう、わかるわぁ」「人間ってこんなんだよねえ」と共感してもらえるものにしたい、と願いながら日々開発を続けています。そしてもちろん、私たち人間が遊んでも面白いゲームに仕上げていきたいと思っています。
私たちについて
私たち、thaは、実はゲーム開発会社ではありません。ウェブ、アプリケーション、インスタレーション、映像など、ざっくり言うとコンピューターメディア全般でいろんなものを制作している、デザイナーとエンジニアの集団です。モットーは、月並みですが「神は細部に宿る」です。小さなディテールを弄り続けながら、ソフトウェアにおける工芸的な美しさを追求している小さなデザイン事務所です。
私は昔、建築家を志していた時期があり、今もさまざまな建築を訪問することが大好きなのですが、建築の魅力はその「統合性」にあります。大きな地形との関わり方から、小さな蛇口金具のディテールに至るまで、さまざまなスケールやジャンルを統合しながらあるひとつの総体を作り上げる。このような作業に強い憧れを持ち続けています。
そして私は、現在のコンピューターメディアにおいて「建築」に最も近い存在は「ゲーム」だと思っています。世界観の設定、ゲームメカニクス、各種アルゴリズム、ビジュアル、アニメーション、音楽まで、ありとあらゆることについて考え続け、調整しつづけ、ひとつの総体を作り上げる。私は建築と全く同様に、ゲームにも強い憧れを持ち続けていました。
わらしべ長者
ただ、私たちはいわゆる「ゲーム業界」の完全に外側に居ることもあり、『HUMANITY』も特に具体的なリリースのあてもなく作り続けていたのですが、ふとしたきっかけ、2年ほど前のゲームエンジン Unityの開発者のプレゼン大会のような集まりで、弊社のメインプログラマーの山が、『HUMANITY』の開発バージョンをプレゼンする機会がありました。そこで審査員として参加していたのが、エンハンスの水口哲也さんでした。
そのプレゼンの数ヶ月後、Facebook経由で水口さんから突然連絡を頂きました。曰く「あのとき見たデモが忘れられない。本格的に興味があるので話したい」とのこと。「あのRezの人がなんか興味持ってくれてるぞ!」と興奮しながら我々は水口さん率いるエンハンスの皆さんと出会い、彼らのプロデュースによって本格的にゲームタイトルを制作することになりました。
そして今現在に至ります。エンハンスの皆さんには、プロデュースだけに留まらない広範な協力を頂き、もはや共同で制作しているような状態にあります。
『HUMANITY』の経緯について、いつも連想するのは日本のおとぎ話「わらしべ長者」です。小さなわらしべを元手にさまざまな人と物々交換をし続け、次第に大きなものを得ていく、というお話です。
たとえ小さなものでも、つくることを辞めずに続けていると、きっと道が拓ける-このような理想論は、人生の中でごく稀にしか起こりませんが、ごく稀には起こります。
『HUMANITY』をPlayStation®というプラットフォームでリリースすることは、私達にとって、その極めて稀な機会となります。この機会を裏切らないよう、一同、ゴリゴリに頑張っています。
というわけで、『HUMANITY』、今後とも何卒よろしくお願いします。