『デビル メイ クライ』『ドラゴンズドグマ』を手がけた伊津野英昭氏が、2024年のカプコン退社から1年。現在はTencent傘下のLightspeed Studios Japanで、キャリアの集大成とも言える新規AAAアクションの開発に挑んでいます。伊津野氏が語った退社の背景、新天地での制作環境、そして「最後の大きな挑戦」と位置づけるプロジェクトの姿に迫ります。
退社を決断した背景
伊津野氏がカプコン退社を決意した理由は、年齢を重ねる中で「残り少ないクリエイター人生で、できることはやっておきたい」という想いが強まったことにあります。カプコンでは『Devil May Cry』や『Dragon’s Dogma』といった人気IPの続編開発が優先される状況があり、「新しいことに挑戦するのは、不可能ではないもののやっぱり簡単ではない」と判断したことが大きな要因となりました。
VGCのインタビューでは「年齢的に考えて、これが最後のチャンスかもしれない」と語り、カプコンにとって続編開発が最優先である現状を理解しつつも、4〜5年かかるゲーム開発期間を考慮すると「これが最後の大きな機会」だと決断したと説明しています。
興味深いことに、伊津野氏が完全にゼロから立ち上げた新規IPは『ジャスティス学園』と『ドラゴンズドグマ』のみで、他の作品は既存シリーズの継承や引き継ぎによるものでした。この事実が「真の意味での新規IP創造」への渇望を強めた背景にあります。
退社のタイミングについては、『ドラゴンズドグマ2』の開発中に複数の企業から声がかかり、同作の発売後対応を完了した2024年8月末付けで退社(実際の出社は6月まで)、9月1日付けでLightspeed Studios Japanに移籍しました。
Lightspeed Studios Japan選択の理由
数ある選択肢の中からLightspeed Studios Japanを選んだ決め手は「クリエイティブに専念できる環境」でした。伊津野氏は「自分で会社は立ち上げたくなかった」と語り、経営業務によってクリエイティブ時間が削られることを避けたかったと説明しています。
同社での肩書きは「代表」ですが、実態はスタジオ責任者兼総合ディレクターであり、経営の社長職ではありません。また、「内部のリソース技術も使い放題」と言われるほどの高い技術力と豊富なサポート体制に魅力を感じたと語っています。
チーム構成と開発環境
現在のLightspeed Studios Japanは東京と大阪の二拠点体制で、合計約40名のチームを率いています。カプコン出身者の割合については、VGCインタビューでは「約3分の1」、国内インタビューでは「約半分」と異なる数字が示されており、採用活動の進展により変動している可能性があります。
チーム内の公用語は日本語に統一されており、海外出身メンバーも採用条件として日本語能力を求められています。これは円滑なコミュニケーションを重視する伊津野氏の方針によるものです。
開発環境については「なるべくホワイトな職場にしていこう」とし、出社を推奨する理由を「他者と協力することで一人以上の力を発揮できるから」と説明しています。東京と大阪のオフィスはモニターで常時接続され、リアルタイムでのコミュニケーションが可能な環境を整備しています。
開発中の新作について
新作については「これまでに作ってきたもののいいところを集約した、集大成的なゲーム」と表現しています。具体的には、対戦格闘ゲーム的なコンボやキャラクターの個性(『ジャスティス学園』)、奥深いアクション性(『Devil May Cry』)、AIを活用した革新的な仕組み(『ドラゴンズドグマ』)などの要素を融合することを目指しています。
開発は「今年の春から世界設定を進めながらプロトタイプを作り始めた」段階で、シングルプレイを基盤としつつマルチプレイにも対応できる構想を明かしています。最終的なチーム規模は100人以上を想定しており、現在も積極的な採用活動を継続中です。
開発哲学と企画理念
伊津野氏が語る「通る企画書」の要素は以下の通りです。
- 自信を持って「面白い」と言えること
- 計画通り進めば作り切れる実現可能性
- 「売れそうでしょ?」と言える市場性
- 絶対にブレないこと
新作についても「『○○といえばコレだよね』と言われる要素を必ず用意する」としつつ、「自分がいちばん作りたいゲームは売れない。だから面白い要素を抜き出して、経験上『これは大丈夫』な要素と組み合わせている」と現実的なバランス感覚を示しています。
業界動向への見解
VGCインタビューでは、近年のアクションゲーム業界について興味深い分析を披露しています。「Dark SoulsとDMCの中間のような作品は多かったが、特に驚くものはなかった」と既存ソウルライク系への飽和感を示す一方、「最近のインディ・ジョーンズゲームのような枠外のタイトルに刺激を受けた」と語り、既存の枠組みにとらわれない発想の重要性を強調しています。
『ドラゴンズドグマ2』への評価
『ドラゴンズドグマ2』は批評面で高評価を得る一方、一部ファンの間で賛否が分かれました。これについて伊津野氏は「普遍的に好まれる任天堂的設計ではなく、特定のオーディエンスに向けて作った結果であり想定内」と説明し、細部まで評価してくれた支持層に誇りを示しました。「このレベルで売れれば十分」と満足感を語っています。
将来への展望
今後については「Capcom vs. SNK 3を作りたい」との強い希望を表明し、格闘ゲーム制作への意欲を示しました。また「10年単位の計画」を描いており、将来的には複数の開発ラインを同時に走らせることで、スタッフのキャリア形成にも貢献したいと展望を語っています。
興味深いエピソードとして、同世代の神谷英樹氏との関係についても言及。両者は退社後に交流を再開しており、「監督が2人だと喧嘩になる」と協業は否定しつつも、開発開始時期が重なったため「発売時期は3か月ほどずらしてほしい」と冗談交じりに希望を述べています。
まとめ
「生涯現役」への意欲を明言する伊津野氏は、宮崎駿監督から受けた刺激を胸に「ユーザーに『あの人が関わっているなら興味がある』と思ってもらえる時間を1年でも1作でも長く続けたい」と語りました。
30年以上のキャリアを築いた業界のベテランが、新たな環境で挑む「最後の大きな挑戦」。その成果は、日本のゲーム開発業界の未来を占う重要な試金石となりそうです。
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