人気RPG『テイルズ オブ』シリーズの過去作品を現代のゲーム機で蘇らせる「リマスタープロジェクト」。しかし、その発売順序がシリーズの歴史をなぞるものではないことに、多くのファンが注目しています。なぜ、このような順序でリリースされるのでしょうか。東京ゲームショウ2025で語られた内容に基づき、その背景にある開発の現実と、シリーズの未来を見据えた戦略を客観的に分析します。
背景:TGS2025で明かされたプロジェクト方針
2025年9月に開催された「東京ゲームショウ2025」の配信番組で、『テイルズ オブ』シリーズのIP総合プロデューサーである富澤祐介氏が、リマスタープロジェクトの方針について言及しました。このプロジェクトは、シリーズ30周年を機に、過去の作品を現行機で遊べないという問題を解決することを主な目的としています。
プロジェクトは、第1弾『テイルズ オブ グレイセス エフ リマスター』に続き、2025年10月30日には第2弾『テイルズ オブ エクシリア リマスター』の発売を予定しています。しかし、この2作品はシリーズの発売順とは大きく異なっており、その選定理由が今回、公式に説明されました。
課題:30年の歴史がもたらすリマスター開発の困難
富澤氏が明かした最大の課題は、30年という長い歴史の中で複雑化した「ソースデータ」の管理です。ソースデータとは、ゲームを構成する設計図のようなもので、リマスター開発には不可欠な資産です。

『テイルズ オブ』シリーズは、1995年の第1作から現在に至るまで、作品によって開発会社が異なるケースがありました。そのため、ソースデータの保管場所や管理者が分散しており、開発に着手する前にまず「データを探す」という工程から始めなければならないというのです。さらに、発見されたデータが一部欠損していることもあり、その解析だけで数ヶ月を要する場合もあると、舞台裏の労力が語られました。
富澤氏は、本来であればシリーズの発売順にリマスターするのが理想的としつつも、現実的な課題から別のアプローチを取っていると説明しました。
戦略:「準備ができたものから」という現実的な選択
こうした開発上の困難を踏まえ、バンダイナムコエンターテインメントが採用したのが、「各タイトルを並行して確認し、ゴールに早くたどり着けそうなものから発表・発売する」という戦略です。これは、特定の作品の開発遅延によってプロジェクト全体が停滞するリスクを避け、結果として「1作でも多く、早く」ファンに届けるための、極めて現実的な判断と言えます。
この戦略により、プレイヤーは特定の順番を待つことなく、開発が完了した作品から順次プレイする機会を得られます。これは、過去の名作へのアクセス性を高め、シリーズへの関心を継続させる上で有効な手段です。一方で、物語の時系列や発売順に体験したいプレイヤーにとっては、順序の変更が混乱を招く可能性も指摘されます。
意義:IPの持続可能性を確保するための経営判断
この発売戦略は、単なる製品展開計画にとどまらず、『テイルズ オブ』というIP(知的財産)の未来を左右する経営判断としての側面を持ちます。富澤氏は、リマスター版1作1作の売上が、次の作品を開発するための資金となり、シリーズの未来につながっていくと強調しました。
これは、プレイヤーの購買行動が、シリーズの存続と成長に直接的に貢献する構造を示唆しています。他の多くの長寿シリーズがリマスターやリメイクでIP価値を維持・向上させているように、『テイルズ オブ』もまた、過去の資産を現代に蘇らせることで、新規ファンの獲得と既存ファンの満足度向上を目指しています。今回の戦略は、そのための最も効率的かつ確実な道筋として選択されたものと分析できます。
結論:未来へつなぐための現実的な一歩
『テイルズ オブ』リマスタープロジェクトの異例の発売順序は、長寿シリーズならではの開発上の課題と、IPの未来を確実にするための戦略的な判断が背景にあります。発売順にこだわらず「準備ができたものから」リリースする方針は、ファンに1作でも多くの作品を迅速に提供するための現実的な最適解です。
このプロジェクトの進行は、プレイヤーが過去の名作に触れる機会を増やすだけでなく、その一つ一つの成功がシリーズ全体の未来を支えるという重要な意味を持ちます。今後のラインナップ発表を含め、プロジェクトの動向は、シリーズの今後を占う上で引き続き大きな注目を集めるでしょう。




