『龍が如く極3』 中村獅童が本気を出した理由、香川照之が見せた”大和田常務の牙”

『龍が如く極3』横山昌義氏インタビュー ― 中村獅童が本気を出した理由、香川照之が見せた"大和田常務の牙"

2026年発売予定の『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』。シリーズ20周年を記念するこの作品について、龍が如くスタジオ代表の横山昌義氏が制作の裏側を語りました。峯義孝の完全プレイアブル化、香川照之という大物俳優の起用、そして「日本統一」とのコラボ。すべてはファンのために――横山氏が明かした制作秘話には、20年分の感謝が詰まっていました。

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中村獅童が本気を出した ― 峯義孝、ついにカラオケで歌う

シリーズファンなら誰もが記憶している『龍が如く3』の峯義孝。その峯が、ついに主人公として完全プレイアブル化されます。しかも、ただプレイできるだけではありません。中村獅童さん本人がカラオケ楽曲まで歌唱しているのです。

横山氏は「ダメもとでお願いしてみた」と振り返りますが、獅童さんの反応は予想外でした。快諾どころか、「今回は気合い入っています。手は抜けないです」という力強い言葉が返ってきたといいます。

その背景には興味深いエピソードがあります。2009年の『龍が如く3』当時、獅童さんにとってゲームの仕事は初めての経験で、おそらく手探りの状態だったのではないかと横山氏は推測しています。しかしリリース後、獅童さんは会う人会う人から「峯よかったです!」と声をかけられ続けました。それも国内だけでなく、海外からも。何年も前の作品にもかかわらず、いまだに言われ続けているといいます。

その影響力の大きさを実感した獅童さんだからこそ、今回は全力で臨む覚悟を決めたのです。カラオケで歌う峯の姿は、まさにその覚悟の結晶と言えるでしょう。

香川照之が浜崎になったとき、”大和田常務の牙”が現れた

今回のキャスト変更で最も衝撃的だったのが、浜崎役への香川照之さんの起用です。横山氏は「いま新しく演じてもらったらおもしろいと思える方」として香川さんを選びましたが、収録現場では予想を超える事態が起きていました。

当初、横山氏は「ちょっと抑えて演じてもらおうかな」と考えていたそうです。オリジナルで高橋ジョージさんが演じたクセのある浜崎に引っ張られない、違う浜崎を目指していたのです。ところが実際に収録が始まると、浜崎が本音を語るとき、ピンチになったとき、香川さんの”牙”が出てきました。

「近いところで言うと、ドラマ『半沢直樹』の大和田常務みたいな」と横山氏は笑います。

さらに今回、香川さんについては異例の対応が取られました。これまで『龍が如く』シリーズでは、身体の動き、声、表情を分業で収録していました。派手なアクションをキャスト本人に求めるのは難しいため、モーションアクターが身体と表情を演じ、声優が声を入れるという方式です。

しかし香川さんの演技は、その枠に収まりませんでした。「”笑いながら怒る”とか、そういうことができちゃう方」であり、その表情の豊かさはモーションアクターが演じられる範囲を超えていたのです。そこで横山氏は香川さんに直接相談し、フェイシャルモーションも本人が演じることになりました。結果、「ここでこの表情をするの?」という驚きの演技が随所に生まれました。横山氏が観たかった浜崎が、そこにはあったのです。

石橋凌が見せた、プロフェッショナルの流儀

名嘉原役の石橋凌さんは、横山氏が「ずっと憧れていた俳優さんのひとり」でした。過去に一度オファーしたものの実現せず、今回ついに念願が叶いました。そして収録現場で、横山氏は石橋さんの役作りの徹底ぶりに圧倒されることになります。

最初の打ち合わせで、石橋さんは名嘉原のバックボーンを細かく尋ねてきました。生年月日はあるのか。何歳なのか。どこで生まれてどう育ったのか。奥さんはいたのか。いたとしたらいつ離婚したのか。ここまで綿密にバックボーンを知りたがる俳優は、これまでいなかったといいます。

さらに驚くべきは、収録当日のことです。石橋さんは打ち合わせの際にいたスタッフ全員の名前を覚えており、名前で呼んでくれたのです。キャラクターの肌の色についても「もうちょっと色黒くしてほしい」と細かく要望を出し、まさに作品を一緒に作り上げていく姿勢でした。

「ああ、こういう取り組みかたなのか!」と横山氏は感心したといいます。演技も抜群だったことは、言うまでもありません。

『日本統一』とのコラボが生まれた、意外な理由

RGG SUMMITで発表された「日本統一」とのコラボドラマプロジェクト。本宮泰風さんが桐生一馬、山口祥行さんが真島吾朗を演じるという、まさかの企画です。

この企画が生まれた背景には、横山氏の冷静な分析がありました。『極3』は20周年記念作品であり、ファン向けに作られています。しかし当然、『極3』から『龍が如く』に触れる新規プレイヤーも存在します。そういう人たちは、いきなり3作目から始めても楽しめないのではないでしょうか。

当初は『龍が如く』と『龍が如く2』のストーリーをまとめた動画を制作する案もありました。しかし横山氏は気づきました。そんな動画はYouTubeにいくらでもある。興味がある人は、すでに観ている。

「我々がすべきことは何なのかと言ったら、いままで『龍が如く』に触れていなかった方が、3作目だけど気になって手に取ってもらえるようなコンテンツを発信すること」

その答えが、「日本統一」のキャスト陣による『龍が如く』でした。エンターテインメントとして成立していて、「これはこれで観たい!」と思わせるコンテンツ。そしてその続きが『極3』になっている図式です。

本宮泰風さんに相談したところ、快諾。この夏に脚本が上がり、20周年に合わせて配信できるスケジュールが組まれました。横山氏も「ちょっとスピードがおかしいですよね」と笑うほどの超速制作です。

興味深いのは、神室町の再現方法です。ロケが難しいシーンも多いため、ゲームのCGと実写を組み合わせる形になるといいます。本宮さんと山口さんが演じる実写の桐生と真島が神室町を歩くシーンなどは、ゲームのCGで表現される予定です。実際、試しにゲーム内の桐生と真島の顔を『龍が如く7外伝』に登場した獅子堂と鶴野のCGモデル(本宮さんと山口さんをスキャンしたもの)に差し替えてみたところ、「めちゃくちゃピッタリで、DLCとしてスキン変更をリリースしようかと思うレベル」だったそうです。とくに真島の顔を鶴野に変えたときは、肌の色まで調整不要なほどマッチしていたといいます。

シリーズ初の禁忌を破る ― “現役極道”が主人公に

『龍が如く3外伝 Dark Ties』には、もうひとつ重要な意味があります。横山氏がこれまで守ってきたポリシーを、初めて破ったのです。

「じつはこれまでの作品では、基本的に”現役の極道を主人公には据えていない”んです」

桐生も春日も、メインストーリーの時点では”元極道”だったり、カタギだったりします。しかし『Dark Ties』では、峯が極道になるまでの過程がしっかりと描かれます。

横山氏は作品の方向性をこう説明しています。「感覚的には映画の『アウトレイジ』に近い話だと思っていて、登場するのは全員悪人なんです」

神田も悪人。峯が崇拝している大吾も、結局は極道の親分。「”物語から得られる教訓”や”いい話”なんてものはひとつもありません」と横山氏は断言します。

プレイヤーは峯を操作しますが、峯に感情移入するのではなく、峯を俯瞰して観ていくような作品になっています。20周年のタイミングだからこそ、「変化球もいいかな?」という判断でした。

守られたもの ― 渡哲也と田中敦子の声

キャスト変更が大きな話題となる中、変えられなかったものもあります。『龍3』で渡哲也さんと田中敦子さんが演じた役については、当時の音声がそのまま使用されます。

「そこは守りたいと考えていました」と横山氏は語ります。

峯と神田のキャストが変更できなかったのも、同様の理由です。『極3』と『Dark Ties』は独立したタイトルで、いきなり『Dark Ties』からプレイすることもできます。そうなったとき、過去に『龍3』をプレイした人が違う見た目、違う声の峯や神田を見たら混乱するでしょう。

変えるべきもの、守るべきもの。その判断基準は明確でした。ファンの目線です。

公式が”結婚”を支援する ― 前代未聞の20周年イベント

20周年記念イベントでは、「冠婚葬祭」がテーマとなります。過去の「散った男たち展」は”葬”がテーマでしたが、今回は歴史を振り返りながら、柏木さんなど様々なキャラクターの20歳くらいの姿が見られる展示が予定されています。

そして極めつけが、予約制で特定のキャラクターと結婚式を挙げられるサービスです。参加者はウエディング衣装を着用し、選んだキャラクターとがっつり記念撮影ができます。男女両方のキャラクターが用意されるといいます。

「公式がキャラクターとの結婚を支援するというのは、なかなか聞かないですね」というインタビュアーの言葉に、横山氏はこう答えました。

「ファンサービスとして、そういうものもあっていいんじゃないかな、と」

20周年は、ファンへの恩返し

インタビュー全体を通して感じられるのは、横山氏の一貫した姿勢です。「20周年を迎えられたのは、ひとえに応援してくださったファンの方々あってのこと」という言葉通り、今回の『極3』は徹頭徹尾、ファンのために作られています。

峯のプレイアブル化も、香川照之の起用も、「日本統一」とのコラボも、キャラクターとの結婚式も、すべては「ファンが素直に『欲しい!』と思えるタイトルを作ろう」という思いから生まれました。

『龍が如く』シリーズが20年間愛され続けてきた理由が、このインタビューには詰まっています。作り手とファンの間にある、深い信頼関係。その関係性こそが、シリーズを支えてきた真の力なのでしょう。

2026年2月12日、『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』が発売されます。そこには、20年分の感謝と覚悟が込められています。

出展

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