ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とテンセントとの間で続く著作権侵害訴訟が、新たな段階に入りました。『Horizon』シリーズのデザイン模倣疑惑を根幹とするこの訴訟に加え、ソニーは、テンセントが複数の子会社を利用して法的な責任の所在を不明確にしていると主張する、通称「シェルゲーム」に関する新たな告発を行いました。これにより、争点は当初のデザイン類似性の問題から、より複雑な企業構造の問題にまで拡大しています。本稿では、提出された法廷文書に基づき、この新たな争点の具体的な内容と訴訟の背景を整理します。
【原点】今なお続く「露骨なコピー」という主張
この訴訟の出発点は、テンセントのゲーム『Light of Motiram』が、ソニーの『Horizon』シリーズと酷似しているという指摘でした。ソニー側は、主人公のキャラクターデザインをはじめ、「見た目、サウンド、キャラクター、物語」に至るまで、保護された要素が「明白かつ広範囲にコピー」されていると主張しています。これに対しテンセント側は過去に、それらは特定の作品に固有のものではなく、「ありふれたジャンルの要素」や「昔からある慣習」の範囲内であると反論。創造性と著作権保護の境界線を巡る見解の対立が、訴訟の根本的な構図となっています。


【新たな争点】ソニーが告発するテンセントの「シェルゲーム」とは?
今回の訴訟でソニーが新たに提示したのが、テンセントの企業統治に関する重大な指摘です。ソニーの主張によれば、テンセントは『Light of Motiram』の開発スタジオである「Aurora Studios」や、ブランドの「Level Infinite」「Proxima Beta」といった複数の関連会社を介在させています。ソニーは、これが親会社であるTencent Holdingsへの責任追及を困難にするための意図的な構造、すなわち「シェルゲーム」にあたると指摘しました。これは、単なる著作権侵害の主張に留まらず、相手企業の組織構造そのものの正当性を問う、異例の申し立てと言えます。
「発売延期は無関係」ソニーが断じる”継続する損害”
テンセント側は、問題となっている『Light of Motiram』のリリースを2027年まで延期したと主張しています。しかし、ソニーはこの主張を「ナンセンス」であると退け、たとえ発売が先送りになったとしても「損害は既に発生し、継続している」との立場を崩していません。ソニーが指摘する「損害」とは、プロモーション活動によって生じたファンの混乱や、ジャーナリストや消費者から「模倣品」との評価が定着したことによるブランド価値の毀損などを指しています。物理的な製品の販売有無にかかわらず、知的財産へのダメージは既に回復困難なレベルに達しているというのがソニー側の見解です。
ブランドの象徴「アーロイ」を守る戦略的意義
ソニーがこの問題で強硬な姿勢を取り続ける背景には、主人公「アーロイ」が持つブランド上の重要性があります。アーロイは単なるゲームキャラクターに留まらず、PlayStationプラットフォームを代表する象徴的な存在としてマーケティングされてきました。そのため、アーロイの「信用と評判」に類似したキャラクターを他社が利用することは、ソニーのIP戦略の根幹を揺るがす行為と見なされています。テンセントが『Horizon Forbidden West』の作曲家を起用していたという事実も、ソニー側が模倣の意図性を裏付ける一因として捉えている可能性があります。
裁判の行方とゲーム業界に投げかける「問い」
現在、訴訟はテンセント側による「申し立て棄却の動議」に対し、ソニーがそれを退けるよう裁判所に求めている段階にあります。この裁判の判決は、単に二社間の勝敗を決するだけでなく、今後のゲーム業界全体に影響を与える可能性があります。巨大な資本を持つ企業が、複雑な子会社構造を利用してIPに関する責任を回避できるのか。そして、キャラクターという無形の資産が持つ価値は、法的にどこまで保護されるべきなのか。この訴訟は、グローバル化が進む現代のゲームビジネスにおける、知財戦略と企業倫理のあり方について、重い問いを投げかけています。



