韓国より日本で多く売れている『魔女の庭』と韓国インディーの今

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韓国・釜山で行われたゲームショー「G-STAR」で、インディーゲーム『魔女の庭(原題:마녀의 정원)』の試遊台に長い行列ができました。本作を開発したのは、約10年間モバイルゲームを作ってきた韓国スタジオ・チームタパスです。そんな同作が、いま韓国より日本で多く売れていると開発元が語っており、韓国インディー作品と日本のPC・コンソールユーザーとの接点を考えるうえでも興味深い事例になっています。

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『魔女の庭』はどんなゲーム?日本や海外での売れ行き

『魔女の庭』は、韓国のインディー開発会社チームタパスによるPC・コンソール向けゲームです。大韓民国ゲーム大賞でインディーゲーム賞を受賞しており、G-STARではユニティブース内に試遊台が設置されました。インディー作品ながら、大型イベントでも存在感を示したタイトルです。

チームタパスのイム・テヒ代表は、インタビューで「『魔女の庭』は韓国より日本での販売が多い」と話しています。さらに、英語圏や台湾でも反応が良いとし、「むしろ韓国のプレイヤーにどう届けるかを悩んでいる」とも語りました。韓国のゲームでありながら、日本をはじめ海外での売れ行きが先行しているのが現在の状況だと、開発側は説明しています。

現在『魔女の庭』は、PCゲーム配信プラットフォームのSteamで早期アクセス作品として配信中です。早期アクセスは、開発途中のバージョンを公開し、プレイヤーの意見をもらいながら改善していく仕組みです。正式リリース前からプレイヤーとやり取りしながら作り込める方式は、インディー作品と相性の良い方法として広く使われており、『魔女の庭』もその形で日本を含む各地域のプレイヤーに届いています。

韓国でもPC・コンソールユーザーが増えている

韓国といえばスマホゲームのイメージが強いですが、PC・コンソールで遊ぶ人も増えています。調査会社モバイルインデックスのリポートによると、PC・コンソールゲーム関連アプリのアクティブ端末数は、前年8月の547万台から今年8月には636万台となりました。1年で約89万台増加しており、対象はSteamやNintendo Switch、Xbox、PlayStationの公式アプリなどです。

もともとモバイル中心だったことを考えると、この増え方はPC・コンソールで遊ぶ利用環境が広がっていることをうかがわせます。『魔女の庭』のようなPC・コンソール向けインディー作品にとっても、韓国内外でプレイヤーと出会う機会が少しずつ増え始めている段階と言えそうです。

現地の声からも変化が見えます。コンソールゲームスタジアムのブースで列に並んでいた22歳の来場者は「中学の頃からコンソールゲームを遊んでいるが、最近コンソール市場がかなり大きくなったと感じる」と話しました。また「モバイル中心だった大手がPCやコンソールに参入していること」や「StoveやSteamを通じてコンソールゲームが身近になっていること」も挙げ、すでに購入済みのゲームを会場で試遊していたといいます。

G-STAR会場で分かった『魔女の庭』への注目度

G-STARのインディーエリアが置かれたBEXCO第2展示館では、ユニティブース内に『魔女の庭』の試遊コーナーが設けられていました。取材によると、2日目の14日午後になっても試遊待ちの列はなかなか短くならず、次々とプレイヤーが席に着いていたとのことです。16歳の来場者は「通りかかって気になったので列に並んだ」と話し、ふだんはモバイルよりPCやコンソールのゲームを多く遊んでいると語りました。

画像出典:韓国経済新聞

今年のG-STARでは、「コンソールゲームスタジアム」という専用エリアも用意されています。ここには韓国のインディー開発者によるコンソール向けゲーム12タイトルの試遊台が並び、初参加の新興スタジオも加わりました。チームタパスもユニティブース経由で初めてG-STARに参加しており、インディーのコンソール作品がまとまってプレイヤーの前に出ていく場が整えられつつあります。

こうした動きについて、韓国経済新聞の記者は「これまでコンソール市場の狭さから距離を置いてきた海外や国内のゲーム会社を、あらためて呼び込もうとする試み」と見ています。世界的にはコンソールゲームが大きな市場を占める中、G-STARがコンソール専用エリアを設けたことは、インディーを含むコンソール作品を国内でも紹介しようとする姿勢の表れと受け取ることができます。

モバイル専業からPC・コンソールへ挑戦したチームタパス

チームタパスは、これまで約10年間モバイルゲームを作り続けてきたスタジオです。韓国市場は長くスマホゲームが中心だったため、同社もその流れの中でタイトルを展開してきました。そのチームタパスが、PC・コンソール向けの『魔女の庭』で新しいプラットフォームに挑戦しているのが今回のポイントです。

イム・テヒ代表は、モバイルとPC・コンソールではゲーム運営の考え方が大きく違うと説明します。多くのモバイルゲームは長期運営を前提に、イベントや新コンテンツを少しずつ追加していく形が一般的です。長く続けて遊ぶユーザーが多いため、更新のテンポや分量を調整しながらサービスを続ける必要があります。

一方で『魔女の庭』では、「各プレイで新鮮さを感じられるような構成」が求められたといいます。イム代表は「従来のように長期成長構造にコンテンツを分割して入れるのではなく、1プレイごとに新しさを感じられるようにする必要があり、開発面でも運営面でも多くの悩みがあった」と振り返ります。買い切り型やコンソール向けインディー作品では、限られたプレイ時間の中でどれだけ濃い体験を提供できるかが評価に直結するため、その設計に大きく舵を切った形です。

いまが「韓国インディーにとってチャンスの時期」と語られる背景

イム代表は、韓国インディーの現在について「2010年代初頭と比べると、いまは明らかな好況期だと感じる」と話しています。当時はスマートフォンの普及とともに、モバイルゲームの基本プレイ無料モデルが急速に広がった時期でした。インディーにとってもスマホが主戦場になりやすく、PCやコンソールのインディー作品は今ほど目立っていませんでした。

それに対して現在は、SteamなどのPCプラットフォームやコンソールで、インディー作品が海外から評価される例が増えています。イム代表は「インディー開発者が多様な作品を出し、海外でも認められる流れがすでに定着しつつある」と語り、『魔女の庭』が日本や英語圏、台湾で支持されていることもその一例だと見ています。Steamのユーザーは韓国より海外割合が高いため、特別な戦略を立てなくても自然と海外中心の運営になりやすい点も追い風だとしています。

同時に、イム代表は「市場がもっと大きくなるには、良いゲームが継続的に出てくる環境が必要だ」とも述べています。チームタパスとしては、自分たちが作りたいゲームを作り、リリース後もユーザーの声に合わせて改善を続けることで、その環境づくりに貢献したい考えです。『魔女の庭』は、韓国インディーが国内外で存在感を増し始めたタイミングで登場したタイトルとして、今後の動きが注目されます。

日本のプレイヤーから見る『魔女の庭』の位置づけ

『魔女の庭』が韓国より日本で多く売れているという開発者の言葉は、日本のPC・コンソールユーザーの遊び方とも重なる部分があります。インディーゲームやSteam作品をよく遊ぶ層にとっては、韓国発タイトルであっても、日本語などの言語対応さえあれば国産インディーと近い感覚で手に取りやすいと感じる人もいるでしょう。早期アクセスで、遊びながら開発を応援するスタイルに慣れているプレイヤーにとっても、新作インディーのひとつとして自然に選択肢に入りやすい作品と捉えられます。

また、G-STARでの試遊列が示すように、韓国国内でもPC・コンソールに対する関心は高まりつつありますが、『魔女の庭』の販売面では日本を含む海外が一歩先を走っています。このことは、少なくとも本作に限れば、韓国インディーと日本のPC・コンソールユーザーの相性の良さをうかがわせる事例のひとつと言えます。今後も、韓国で生まれ、日本のプレイヤーがいち早く見つけて支持するインディー作品が登場してくる可能性があります。

現時点の『魔女の庭』は、Steamの早期アクセスを通じてプレイヤーのフィードバックを取り込みながら開発が進んでいる段階です。正式リリースに向けてどのような進化を見せるのか、日本のユーザーがどれだけそのプロセスに関わっていくのかは、韓国インディーと日本市場の距離感を知るうえでのひとつの目安になりそうです。

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