Ubisoft決算発表、延期の理由は「売上計上ルールの見直し」。『ミラージュ』は1000万到達、『シャドウズ』は好調報告も数字は非公開

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ユービーアイソフト(Ubisoft)は日本時間の2025年11月21日、2025-26年度上半期(4〜9月)の決算を発表しました。今回の発表は、本来のスケジュールから約1週間遅れで行われ、「テンセントとの大型ディールに問題が出たのでは」「会社のかたちが変わるような重大発表があるのでは」といった見方も出ていました。最終的に公表された内容を見ると、主な理由は国際会計ルールIFRS 15に沿った売上の計上方法の見直しと、それにからむ借入契約上の条件調整でした。直近の四半期は純予約高が4億9100万ユーロ(前年同期比39%増)と好調で、とくに『アサシン クリード』シリーズや各種パートナーシップが数字を押し上げています。

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決算延期の本当の理由は「売上計上ルール」の見直し

先週、Ubisoftは予定していた決算発表を直前で延期し、株式と一部債券の取引も停止しました。この動きに対して海外メディアは、「テンセントとの大型ディールがこじれたのではないか」といった憶測に加え、「近日中に会社のかたちが大きく変わるような重大発表があるのではないか」という観測も伝えていました。

実際のところ、今回の延期の主な理由は、売上をどのタイミングで計上するかという収益認識ルールの見直しと、それに伴う借入条件への対応です。Ubisoftは監査人(外部のチェック役)からの指摘を受け、パートナー企業との取引で発生した売上について、「どの年度・どの期間の収益として数えるべきか」を国際会計基準IFRS 15に合わせて見直しました。その結果、2024-25年度の決算の一部を修正し、あらためて公表しています。

さらに、今後も同じ考え方で処理していくことにしたことで、2025-26年度第2四半期(Q2)に締結された別のパートナーシップ契約についても、「IFRS 15上の売上」には含めない扱いになりました。契約自体は成立しているものの、IFRS 15のルールに従って「今回の決算期間の売上」には入れていない取引がある、という形です。

こうした見直しの結果、2025年9月30日時点では、一部の借入契約で決められている「これくらいまでなら借金をしてもよい」という条件(レバレッジ・コベナント)を一時的に満たせない状態になったと説明されています。Ubisoftは、これらの借入条件について、関係する金融機関と取り決めを調整する対応を進めている最中です。

決算の修正と説明が終わったことで、Ubisoftは欧州取引所Euronextに対し、株式取引の再開を要請しました。また、延期のタイミングで噂されていたような「会社のかたちが大きく変わるレベルの重大発表」は、少なくとも現時点では行われていません。国内メディアも、延期の主な理由は会計上の問題への対処だったとまとめています。

アサクリ全体は快調、『ミラージュ』は1000万、『シャドウズ』は「予想超え」だが数字は非公開

純予約高などを見ると、決算の数字そのものは改善が目立つ内容です。Ubisoftは、直近四半期の純予約高が前年同期比39%増となり、「会社の見込み(ガイダンス)を上回る結果だった」と説明しています。その主な要因として、

  • 予想以上に好調だったパートナーシップ収益
  • 長く売れ続けている旧作(バックカタログ)の強さ
  • 『アサシン クリード』シリーズ全体の好調

を挙げています。

バックカタログの代表例が、2年前に発売された『アサシン クリード ミラージュ』です。本作は累計プレイヤー数が1000万人に到達したと発表されました。シリーズ初期のような、1つの都市を舞台にしたコンパクトな作りへと戻した作品で、最近配信された無料アップデートについては、サウジアラビアから資金提供を受けたと報じる海外メディアもあります。Ubisoftは決算説明の中で、このアップデートに対するプレイヤーコミュニティからの初期反応は「非常にポジティブ」であり、配信後に『ミラージュ』のプレイ量(アクティビティ)が大きく伸びたこともあって、1000万人到達に至ったと説明しています。

一方、2025年3月に発売された最新作『アサシン クリード シャドウズ』の扱いは、少し慎重です。Ubisoftは今回の四半期について、『シャドウズ』およびシリーズ全体が「予想を上回るパフォーマンスだった(overperforming)」と説明しており、その背景として、コミュニティから待ち望まれていた「ニューゲーム+」モードの追加、そして9月に配信された拡張コンテンツ「The Claws of Awaji(淡路の罠)」が、プレイヤーの“戻り”に貢献したことを挙げています。

ただし、その一方で、新しい売上本数やプレイヤー数といった具体的な数字は一切出していません。Ubisoftは7月の時点で『シャドウズ』が500万人のユニークプレイヤーを超え、「想定どおりのパフォーマンス」と説明していましたが、そこからどれだけ伸びたのかについては、今回の決算では触れられていません。

決算資料ではポジティブに評価されているものの、「具体的な数字は前回から更新なし」という状態は続いており、外から見るとやや判断しづらい部分が残ります。Ubisoftは、来月(12月)に予定しているNintendo Switch 2版の発売を通じて、『シャドウズ』を「より幅広いオーディエンスに届けるチャンス」としており、ここからどこまで数字を伸ばせるかが次の注目ポイントと言えます。

テンセント出資とVantage Studios――借金を減らしつつ、看板IPを固める狙い

決算では、テンセントとの大型出資取引についてもあらためて整理されました。この取引では、Ubisoftが新たに設立した子会社「Vantage Studios」に対し、テンセントが11億6000万ユーロ(約1900億円)を出資します。その見返りとして、テンセントはVantage Studiosに対する経済的持分の26.32%(おおよそ4分の1)を取得します。

Vantage Studiosは、『アサシン クリード』『ファークライ』『トム・クランシーズ レインボーシックス』という、Ubisoftの中でも特に大きな3つのブランドに専念するための子会社です。テンセントは少数株主として、「少数株主保護のための拒否権」「重要な資産を手放す際の同意権」など、一定の発言権を持ちますが、支配権や経営の主導権はUbisoft側に残ると説明されています。

この出資によって入ってくる11億6000万ユーロの資金は、グループ全体の負債を減らし、資金繰りに余裕を持たせるために使われます。Ubisoftは、このお金の一部をローン(借入金)の早期返済にあてるとしています。会計上の見直しで一時的に揺れた財務面を、テンセントからのキャッシュで立て直しつつ、看板IPを束ねるVantage Studiosの立ち上げを加速させる、という構図です。

クリエイティブ・ハウス構想とコスト削減、R6Sの課題

組織面では、CEOのイヴ・ギユモ氏が「クリエイティブ・ハウス(Creative Houses)」という新しい体制の構想を説明しました。詳しい内容は来年1月に公表される予定ですが、ポイントは、

  • それぞれのハウスが自分たちのリーダーとクリエイティブなビジョンを持つ
  • 1つひとつが独立したビジネスユニットとして責任を負う
  • 全体として、自律的で効率的かつ、何を目指すかがはっきりした組織にする

というものです。Ubisoftはここ数年、組織再編や人員削減が続いてきました。ギユモ氏は今回の決算資料で、Creative Housesを軸にした新しいオペレーティングモデルの設計を年内に完了し、2026年1月に詳細を公表する方針を示しており、こうした取り組みを通じて会社の将来像をより明確にしていく考えを示しています。

同時に、コスト削減もかなり進んでいます。決算資料によると、

  • 過去12か月で従業員数は約1500人減少
  • 2025年3月末からの半年ほどでも約700人減少
  • 2025-26年度上半期の固定費は約7億100万ユーロで、前年同期より約6900万ユーロ(約9%)縮小

とされています。人員削減を含む大きなコストカットで、利益体質の改善を進めている段階です。

一方、『レインボーシックス シージ』は、フリーアクセス(基本プレイ無料)モデルへ移行したあとも、チート対策に苦しんでいます。Ubisoftは、フリーアクセス化に伴うチートの急増が、「一時的に」プレイヤー数や課金額を会社の想定より下回らせていると説明しており、ここをどこまで立て直せるかも今後の課題の1つとなっています。

出典

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