2025年9月末にEAを約550億ドル(約8兆円)で買収する取引に合意したばかりのサウジアラビア政府系ファンド「PIF」について、新規の大型投資に回せる現金が限られている可能性があるとThe New York Timesが報じました。ゲーム業界に巨額マネーを投じてきたPIFだけに、今後の投資ペースがどうなるか注目されています。
NY Timesが報じた「新規投資は当面難しい」懸念
The New York Timesは、ムハンマド皇太子の訪米に合わせてPIFの財政状況を伝える記事を公開しました。同紙によると、複数の関係者は、PIFの代表者が国際投資家との会合で「当面は新規の資金配分がほとんどできない」と説明していると証言しています。
PIFの公称資産は約1兆ドルとされていますが、NY Timesによれば、その多くは市場で値段がつきにくく売却しづらい資産だといいます。また、計画都市「Neom」をはじめとする大型プロジェクトの採算や資金面の課題も、PIFの資金の流動性を圧迫している要因の一つとして報じられています。
約8兆円のEA買収をはじめ、ゲーム投資を拡大してきたPIF
PIFはここ数年、ゲーム業界への投資を急速に広げてきました。
その象徴が、2025年9月に発表されたEAの買収取引です。PIF・シルバー・レイク・アフィニティ・パートナーズの3者で構成するコンソーシアムが、EAを総額約550億ドルで買収し非公開化することで最終合意しました。株主は1株あたり210ドルの現金を受け取り、規制当局と株主の承認を経て、EAの2027会計年度第1四半期のクローズを目指すとされています。
EA以外にも、PIFマネーはゲーム業界の各所に流れ込んでいます。PIFが主導するギガプロジェクト「Qiddiya」は、格闘ゲーム大会EVOの共同運営会社RTSを買収しました。また、PIF傘下のSavvy Games Groupは、子会社Scopelyを通じて『ポケモンGO』開発元Nianticのゲーム部門を約35億ドルで取得しています。Ubisoft『アサシン クリード ミラージュ』向けDLCについても、Savvy Gamesが制作資金を支援しているとTechRadarなど複数の海外メディアが報じています。
こうした積極投資の背景には、ムハンマド皇太子自身が『Call of Duty』などを遊ぶ熱心なゲーマーであることも関係していると、複数の海外メディアは指摘しています。
ゲーム投資への影響は「まだ分からない」
NY Timesの報道がゲーム関連投資にどう響くかは、現時点では明らかになっていません。
PIFが『当面は新規資金を出せない』と投資家に伝えているとの証言が事実であれば、今後の買収や出資のペースに影響が出る可能性はあります。
一方で、EA買収のような巨額コミットメントは、この報道が出る以前の2025年9月時点で既に合意されていた案件であり、PIFがゲーム関連投資から完全に撤退したとまでは言えない、というのが現在の見え方です。
資金配分の制約がどこまで続くのか、そしてゲーム分野への投資意欲が維持されるのか。当面はPIFの動きを注視する必要がありそうです。




