『サイレントヒルf』が広げた”入口”と”深さ” 開発陣と作家が語るシリーズの新しい形

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2025年9月25日に発売された『SILENT HILL f(サイレントヒルf)』は、発売翌日に全世界出荷100万本を突破しました。SNSでのミーム化や新規プレイヤーの流入という「入口の広がり」と、周回プレイや小説版での深掘りという「深さへの導線」が同時に成立しています。開発陣とノベライズ作家のインタビューから、この構造がどのように設計されたのかを探ります。

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「入口」を広げたキャラクターの力

主人公・雛子の”男前”な台詞や、狐面の男のビジュアルがSNSで拡散され、ファンアートやコスプレも多数投稿されています。岡本氏は「ミームになってしまったのは想定外でした。我々としては感謝しています」と語りました。

新規プレイヤーの流入も顕著です。岡本氏は「リメイク版『サイレントヒル2』と比較した時に、増えている分が新しいユーザーだと思いますが、相当入ってきているという印象です」と話します。竜騎士07氏も「これだけたくさんの女性プレイヤーの方が色々な関心や感想を持ってもらえたので、嬉しい驚きでした」と振り返りました。

竜騎士07氏は、SNS時代の変化についても言及しています。「キャラクターのビジュアルを見て”これ誰? 何に出るの?”というところから興味を持ち、ゲームに挑戦する。これまでには考えられなかったプレイヤーの流入の仕方をしている」と、入口の広がりを実感していました。

従来シリーズとの違い――「豚骨醤油」の設計

なぜ本作はここまでキャラクターが立っているのでしょうか。竜騎士07氏は、これまでのシリーズについて「サイコロジカルホラーは誰のサイコロジーかといえば、結局プレイヤーの心に迫る話」と説明します。そのため「極力、主人公は多弁でない方が好まれる。プレイヤーが自分のことだと思ってプレイできるように」と、主人公の設計意図を語りました。さらに登場人物について「陰のあるキャラクターが多くなって、”友達になりたいという意味での魅力的”ではなく、ダークな意味で魅力的というキャラクターが増えていく」と振り返っています。

本作の雛子は、その対極にある多弁で前向きな主人公です。岡本氏はこの違いを「竜騎士07先生のフルスロットルで個性が際立つマンガ的なキャラクター性は、濃厚な豚骨ラーメン。サイレントヒルは醤油ラーメン。混ぜたらどんな味になるのか予想がつかない」と表現しました。そのうえで「奇跡的なバランスで雛子っていうキャラクターが生まれてきた」と手応えを語っています。

ディレクターのAl Yang氏は、本作が昭和日本を舞台にした女性主人公の物語でありながら世界的に支持を得た理由について、「”自分の意思を持つ”、”自分の道を切り開く”というメッセージ性において、あらゆるユーザー層に届く話だった」とコメントしています。キャラクターを立てつつ、普遍的なテーマで間口を広げる。これが「入口」を作った設計でした。

「深さ」を生む周回設計

本作には、周回プレイでキャラクターの印象が変わっていく構造があります。岡本氏は「何周も遊んだ方の感想を見ると、最初は”凛子最悪だな”と思っていたのが、だんだん”ちょっといいやつかも”と変わっていく」と指摘しています。

竜騎士07氏の作品に見られるこの特徴について、岡本氏は「『ひぐらしのなく頃に』や『うみねこのなく頃に』も、エピソードを重ねていくとどんどんキャラクターの別の面が見えていって、多面的になる」と説明しました。1周目で見えた印象が、2周目、3周目で覆されていく。この「深さ」が、プレイヤーを繰り返し作品世界へ引き戻す力になっています。

シリーズファンの反応について、岡本氏は「思っている以上に受け入れていただいた」と語りました。「面白かったけどサイレントヒルとしては見られない」という声もごく一部あったものの、多くのファンが新しい方向性として受容したといいます。

小説版が担う「循環」の役割

ノベライズ版『サイレントヒルf』は2025年10月30日にファミ通文庫から発売されました。発表段階で書籍版・電子版ともAmazonランキング1位となり、発売前重版が決定。それでも足りず、初版を大きく上回る大重版が行われ、11月27〜28日ごろから書店に再入荷されています。

執筆を担当した黒史郎氏は、ゲームを何周もプレイしたうえで執筆に臨みました。「ゲームを4周するころには、嫌なところを含めた全部が好きになってしまった」と語り、「周回でキャラの印象が変わっていく体験を、小説でも再現したかった」と振り返っています。画面の端に映るポスターや置物まで確認し、メモや資料を大量に作って臨んだといいます。

岡本氏はこのノベライズを「読むとゲームがまた遊びたくなるくらいの、一冊の文学になったと思う」と評価しました。さらに「サイレントヒルが初めて本格ホラー文学になった」と位置づけています。

ここに「循環」が生まれています。ゲームの周回で深まった体験を、小説がテキストとして再構成する。小説を読んだ人が、またゲームに戻りたくなる。入口から入った人が深さへ向かい、深さを味わった人がさらに作品世界に浸っていく。この循環構造が、本作の広がりを支えていると考えられます。

シリーズの「見せ方の幅」を広げた挑戦

本作の反響を整理すると、少なくとも3つの層が浮かび上がってきます。SNSで雛子や狐面の男を「推し」として追いかけるライト層、従来作との違いを受け入れたシリーズファン、そして周回プレイや小説で考察を深めるコア層です。

重要なのは、この3層が分断されていないことです。ミームをきっかけにゲームを始めた人が、周回で印象を変え、小説でさらに深掘りする。入口と深さが地続きになっている構造が、本作の特徴だと言えます。

竜騎士07氏は「もしもこの方向が受け入れてもらえるのなら、サイレントヒルの見せ方の幅の一つとしてアリだった。これからずっとこうなるのではなくて、こういうやり方もサイレントヒルなんだよという、シリーズの間口の広さの一つの表現」と語っています。

本作は「入口を広げる」と「深さを担保する」を同時に成立させた挑戦でした。その成果として、シリーズはこれまでにない広がり方を見せています。岡本氏が「まだ明かされていない部分に光を当てる取り組みも検討中」と語るように、この新しい形がどこへ向かうのか、今後の展開にも注目が集まります。

出典

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