2025年、セガの人気アドベンチャーゲーム『龍が如く』シリーズが20周年を迎えました。裏社会の人間ドラマをリアルに描き、大人の共感を集めてきた本作は、累計販売本数2770万本を超えるロングセラー作品となっています。
読売新聞オンラインに掲載された横山昌義氏のインタビュー(2025年6月)では、シリーズの歩みについて詳しく語られています。ゲーム誕生の背景から現在の進化、そして未来への展望まで、横山氏の言葉を手がかりにその軌跡をたどっていきます。
セガ再出発の象徴として生まれた『龍が如く』
2000年代初頭、セガは家庭用ゲーム機(メガドライブ、セガサターン、ドリームキャスト)の製造から撤退を決断。ソフトメーカーとして再出発するなかで、収益の柱となる新たなタイトルが求められていました。
その中で誕生したのが、子ども向けファンタジーやSFではなく、”大人が遊びたくなる”世界を描く『龍が如く』です。当初から関わり、現在は『龍が如くスタジオ』総責任者を務める横山昌義氏は、「ゲームといえば玩具の延長という意識が強かった時代に、大人たちでも素直に楽しめるゲームを作ろうと言って始まった」と振り返ります。
批判を越えて実現した“裏社会ドラマ”
舞台は、東京・歌舞伎町をモデルにした架空の歓楽街。極道や裏社会の人間たちの濃密なドラマが描かれることになりました。
ただし、そのテーマ性は当初から波紋を呼び、社内では「『あんなものを作って』と批判された」と横山氏は語ります。「自信はあったが、見返してやりたいという気持ちも強かった」とも明かしており、異色の企画を通すには並々ならぬ覚悟があったことがうかがえます。
“悪の描き方”に込めた哲学
裏社会を描くうえで特に配慮したのは“悪”の表現でした。主人公・桐生一馬は「伝説の極道」と呼ばれる存在でありながら、苦難の連続に翻弄されながらも生き抜いていく人物として描かれています。
横山氏は「悪い大人の魅力を詰め込んだが、彼らが決して幸せにならないように描いている。道を踏み外した人たちが、都合よく幸せになるのではなく、業を背負って苦しみながら、それでも頑張って生きていく姿から、何かが伝わればいい」と語っています。
技術と表現の両立を目指した挑戦
視覚面のリアリティにも強いこだわりがあり、当時はまだ一般的でなかった「モーションキャプチャー」技術に挑戦。実際の役者の演技や動きをデジタル化するこの技法を手探りで導入し、細やかな表情や動作で登場人物の心情を豊かに描き出しました。
シリーズの拡張と変化──20年で何が変わったのか?
名越稔洋──“龍が如く”の生みの親が語る原点と未来
読売新聞オンラインのインタビューでは全く触れられていませんが、シリーズの生みの親である名越稔洋氏にも焦点を当てたいと思います。1989年にセガへ入社し、『Daytona USA』や『Super Monkey Ball』などを手掛けながら成長。2005年の『龍が如く』第1作ではシリーズ総合監督としてプロジェクトを推進し、2012年にセガの取締役CCO(Chief Creative Officer)開発統括本部長に就任。セガの研究開発部門を統括しながら、創造面を牽引しました。しかし、2020年4月1日にCCOから降格し、2021年4月1日には役員を退きクリエイティブ・ディレクターに異動。2021年10月8日にセガを退社しました。
名越氏自身、「シリーズ第1作はリスクが大きく、社内でも反発があった。しかし、粘り強い説得と情熱で上層部の理解を得て、制作を進められた」と振り返っています。その賭けが見事に実り、シリーズ全体として2022年時点で累計1700万本以上の出荷を達成するほどの成功を収めました。初代『龍が如く』も好調な滑り出しを見せ、その後のシリーズ化の基盤を築きました。
2020年1月に登場した『龍が如く7 光と闇の行方』では、アクションゲームからターン制RPGへの大胆なジャンル転換が図られました。名越氏は当初、社内外で賛否の声があったと認めつつ、ユーザーからの好意的なフィードバックを通じて「ゲームは“遊んでなんぼ”。実際にプレイしてもらえることが何より」と自信を語っています。
退社後、2022年1月にNetEase Gamesの出資で「名越スタジオ」を設立し、代表取締役社長に就任。グローバル市場向けのハイエンドコンソールタイトル開発に注力し、現在は約30名の多国籍チームで新作を制作中。名越氏は「驚くような仕掛け」を準備し、引き続きエンタテインメント性の高い作品を目指しています。
新主人公・春日一番の登場
2020年に発売された『龍が如く7 光と闇の行方』では、長年シリーズを牽引してきた桐生一馬に代わり、新たな主人公・春日一番が登場。これに伴いゲームジャンルも大胆に変わり、より多様なゲーム体験が可能となりました。
オンライン対応という新機軸
2025年には、任天堂の新型機「ニンテンドースイッチ2」向けに『龍が如く0 誓いの場所 Director’s Cut』をリリース。シリーズとしては初めてオンラインマルチプレイ機能が導入され、これまでの“1人で遊ぶ”スタイルから脱却し、多人数でのプレイが可能となりました。
『龍が如く』はこれからどこへ向かうのか?
横山氏は、今後の展開について「『龍が如く』はソフトというよりも“器”。器の中での暴れ方は意外と自由なので、いろいろなクリエイターの夢を詰め込んでいきたい」と語ります。
作品の形を固定せず、柔軟に“変化”を受け入れることが『龍が如く』シリーズの持ち味。その精神は、今後のさらなる進化の原動力になっていくでしょう。
結び──“暴れる器”が映す人間ドラマの本質
20年にわたり、『龍が如く』は暴力やアクションだけでなく、人間の葛藤や業と向き合う物語を描き続けてきました。リアルさと重厚さを兼ね備えたこのシリーズは、大人の心に響くゲームとして、これからも“器”の中に多くの物語を注ぎ続けていくはずです。
情報元:読売新聞オンライン




