グラフィックの進化は横ばい状態、では次の一手は?元PS幹部が語る「体験価値の進化」

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元PlayStation Indies責任者の吉田修平氏と、元SIEワールドワイド・スタジオ会長(元SCEA社長兼CEO)のShawn Layden氏が、ゲーム技術の進化が一定の水準に達し、現在は「横ばい状態」にあるとの見解を相次いで示しています。

吉田氏はポッドキャスト「Friends Per Second」で、レイトレーシングの有無や高フレームレートといった違いは、並べて比較しない限り、自身でさえ判別が難しいと述べ、グラフィックスが非常に高い水準に達していると語りました。Layden氏もGamesIndustry.bizのインタビューで「技術面では、正直、横ばいの状態にある」と述べ、90fpsと120fpsの違いを明確に認識できる人がどれほどいるのかと疑問を呈しています。

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技術の進化は体感しづらい段階に

吉田氏の指摘は、長年ゲーム業界が追求してきたグラフィック性能の向上が、今や多くのプレイヤーにとって体感しづらくなってきていることを示唆しています。たとえば、光の反射をリアルに再現するレイトレーシング技術も、注目されてはいるものの、その違いを瞬時に見分けられるプレイヤーは少数派だとしています。

同様にLayden氏は、90fpsから120fpsへのフレームレート向上について、数値上では1.3倍の滑らかさであるものの、体感として明確な差を感じ取れる人は限られると指摘しています。PS5のシステムアーキテクトであるMark Cerny氏も、レイトレーシングやライティングに関する現在の技術的アプローチについて、すでに一定の限界に達しているとの認識を示しており、技術者の間でも進化の鈍化が共有されつつある状況です。

過去のような劇的な進化は見られない

かつてのゲーム機世代交代では、体験自体が大きく変わるような進化が見られました。2Dから3Dへの移行は、ゲーム体験を根本から一新し、PS2/Xbox世代からPS3/Xbox 360世代への進化では、HD画質の導入やオンラインプレイの普及によって、家庭のエンターテインメントの在り方に大きな変化をもたらしました。

しかし、Layden氏は、PS5およびXbox Series X|Sの世代については、前世代に比べて「小幅な性能向上」にとどまっていると述べます。ロード時間の短縮や、わずかなグラフィックの向上はあるものの、過去のように「ゲームの概念が変わる」ような革新性は見受けられないという見解です。

従来の戦略では差別化が難しくなっている

吉田氏は、PlayStationがこれまでに展開してきた戦略についても言及しています。ソニーは長らく、グラフィックス性能の向上によって、ハイエンドなゲーム体験を提供し続けてきました。しかし吉田氏は、「PlayStationは明らかに、これまでやってきたこと――つまりグラフィック性能を向上させてハイエンド体験を提供すること――を同じようには続けられない」と述べています。技術の進化が横ばいになる中で、従来のアプローチでは限界が見えてきているという認識です。

それでもPS5は「奇跡」、SSDがもたらした体験の進化

一方で、吉田氏はPS5に対して高く評価しています。特にSSDの採用については「ある意味、奇跡」と述べ、プレイ体験の質においてPS5は非常に優れたシステムだと語りました。
吉田氏はさらに「PS5とSSDは、ほぼすべてのゲームをより良いものにした」と発言。これはグラフィックの進化以上に、ロード時間の大幅な短縮といった体験面の改善が、プレイヤーの没入感を飛躍的に高めたことを意味しています。

つまり、視覚的な派手さよりも、プレイ中のストレスを軽減し、ゲーム世界への没入を支援するような「見えにくい進化」こそが、現世代の真の価値であるとしています。

次の世代に求められるのは「より安く、よりシンプルに」

では今後、ハードウェアメーカーやコンソール開発企業は、どのような方向に進むべきなのでしょうか。Layden氏は「より安く、よりシンプルに」することが鍵であると語り、さらに「より多くのハードウェア企業が参加できる方法を見つけるべきだ」と提言しています。人間の目で判別しにくい性能向上を追い続けるのではなく、より多くの人が手軽にゲームへアクセスできる環境の整備こそが重要だとする見解です。

またLayden氏は、『Clair Obscur: Expedition 33』のようなAA級ゲームを高く評価しており、長期間にわたる類似タイトルの開発に疲弊している現状の中で、ゲーム業界における多様性の重要性を改めて強調しています。コストや表現の幅に焦点を当てることが、これからのゲーム開発にとってより価値のある方向性となるかもしれません。

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