コナミが放つ「サイレントヒル」シリーズ最新作『Silent Hill f』。Gamescom 2025にて、一部メディア向けに3時間にも及ぶ長時間のハンズオンプレビューが実施され、本作の詳細が明らかになりつつあります。特に、海外の著名な技術分析メディアDigital Foundryが公開したプレビューでは、Unreal Engine 5(UE5)で開発されている本作の驚くべき技術的完成度と、シリーズに新たな息吹をもたらす独創的な世界観が高く評価されました。
本記事では、Digital FoundryのJohn Linneman氏による詳細なプレイレポートを基に、『Silent Hill f』がプレビュー段階で示した技術的な達成と、それがゲーム体験にどのような深みを与えているのかを深く掘り下げて分析します。
驚きの技術力:UE5の常識をくつがえす安定したパフォーマンス
今回のプレビューで最も注目されたのは、その卓越した技術的完成度です。Linneman氏は、PC版とPlayStation 5版の両方で本作を体験し、その安定したパフォーマンスに驚きを隠しませんでした。
特筆すべきは、近年の多くのUE5採用タイトルが直面してきたパフォーマンスや描画の課題を、本作が現時点で見事に克服している点です。Linneman氏は、PS5実機でのプレイについて「素晴らしく滑らかな毎秒60フレームで動作していました」と報告しています。これは通常モデルのPS5での動作であり、試遊段階としては珍しいほど最適化が進んでいることを示しています。
また、UE5製ゲームでしばしば指摘される特有のノイズについても、以下のように述べています。
「これはUnreal Engine 5のゲームですが、非常にクリーンに見えます。驚くほど安定しており、私たちがUE5ゲームで慣れ親しんでいる典型的な斑点のようなノイズや時間的ノイズがありません。見た目も動作も非常に優れているため、UE5のゲームだとはほとんど推測できないほどです。」
PC版では、会場設定でネイティブ4K・最高設定にされており初期パフォーマンスは芳しくありませんでしたが、NVIDIAの超解像技術「DLSS」を品質モードに切り替えると安定した60fpsになり、「針のようにシャープな画質で、残像や表示の乱れも最小限」という結果を得られたそうです。
光の表現には、UE5の強力な機能である「Lumen」がソフトウェアベースで活用されており、反射は「SDFリフレクションとSSRの組み合わせ」が確認されています。これにより、派手さはないものの、繊細で効果的な間接光がゲームの不気味な雰囲気を上手く作り出し、没入感を高めています。
なお、上に掲載した動画の映像素材(B-roll)は開発者提供のもので、どの機種で録画されたかは分かっていません。上記の評価はLinneman氏が実際にプレイした体験に基づいています。
伝統と新しさのミックス:独自の日本風ホラー体験
『Silent Hill f』は、1960年代の日本の田舎町を舞台としており、これまでのシリーズ作品とは一線を画す世界観を持っています。この点についてLinneman氏は「このゲームはほとんど『サイレントヒル』らしくない。でも、それでいて『サイレントヒル』だ」という興味深い評価を下しています。
彼の分析によれば、過去のシリーズ作品は、特に『4』以降「グレイテスト・ヒッツを繰り返そうとしていた」傾向がありましたが、本作は完全に新しい設定と物語で独自の恐怖を追求しています。霧に包まれた町、奇妙な出来事が起こる「ダンジョン」のような空間の探索、そして物語が少しずつ進んでいくというシリーズの基本は残しつつ、雰囲気やストーリーの語り方は全く新しくなっています。
試遊デモの冒頭では、主人公が父親と口論の末に家を飛び出し、友人に会うために町へ向かいます。しかし、町は霧深く閑散としており、出会った友人たちの様子もどこかおかしい。そして突如、友人の一人が「奇妙な深紅色の植物みたいなもの」に体の中から侵食されて窒息死するというショッキングなシーンから、本格的な物語がスタートします。
Linneman氏は、その雰囲気を無理に例えるなら「『SIREN』シリーズを思い起こさせる」としつつも、ゲームプレイは全く異なると指摘しており、『Silent Hill f』が確立した唯一無二の魅力に引き込まれたと語っています。
緊張感を高める戦闘と探索の体験
本作の戦闘は、敵をロックオンし、攻撃、回避、パリィを駆使する、いわゆる「ソウルライク」に近い形式を採用しています。しかし、ゲーム全体の構造は従来のサイレントヒルシリーズに近く、あくまでアクション要素を強化した戦闘システムと位置づけられています。
この戦闘で特に重要な役割を果たすのが「武器が壊れる」システムです。Linneman氏は、普段このシステムは好きではないそうですが、本作においては緊張感を大きく高める役割を果たしていると高く評価しています。
「私は結局すべての武器を壊してしまいました。『しまった』と思い、敵から逃げ回りながら次のカカシに駆け寄って、急いでアイテムを引き抜こうとしました。それは畑の中でのかくれんぼみたいな感じになりました」
武器を失って無力な状態で敵から逃げる体験は、サバイバルホラーの基本的な恐怖をプレイヤーに感じさせます。このシステムは、ただのアクションではなく、資源の管理と絶望的な状況を上手く描き出しています。
開発戦略とコナミの自信
本作の開発を手掛けているのは、台湾に拠点を置く開発スタジオ「Neobards Entertainment」です。彼らは過去にカプコンの『デッドライジング』リマスターなどを手掛けていますが、本作ほどの大規模な新規タイトルは異例の抜擢と言えます。Digital FoundryのAlex Battaglia氏も「なぜ彼らが選ばれたのか不思議に思う」とコメントしており、この起用が業界にとってサプライズであったことがうかがえます。
そして、その品質に対するコナミの自信は、今回の試遊会の形そのものに表れています。メディアに3時間中断なしでプレイさせたことについて、Linneman氏はこう分析しています。
「このゲームは、もし15分しかプレイできなかったとしたら、その良さは伝わらないでしょう。展開が非常にゆっくりだからです」
魅力は霧深い町をあてもなく歩き回り、雰囲気に浸ることではじめて分かります。短いデモでは伝わりにくいので、長時間の試遊を用意したコナミの判断は、作品への深い理解と強い自信を示しています。
達成点と課題の比較
試遊段階での達成点
技術面では、PS5での安定した60fps動作、PCでのDLSS品質モードによる高画質と安定性、UE5特有のノイズを最小限にした映像品質が確認されました。Linneman氏が「カクつきはゼロ」と表現するほどの安定性は、試遊段階としては珍しい完成度です。
ゲーム体験では、霧や間接光を使った美術と照明による独自の日本風ホラーの雰囲気、長時間プレイでじわじわ怖くなる「スローバーン」設計、戦闘と壊れる武器による資源の逼迫感が高く評価されています。
まとめ
『Silent Hill f』は、プレビュー段階において「UE5の弱点を巧みに避けた最適化」「緊張を生むリソース管理設計」「独自の和ホラー体験」という明確な達成を示しました。コナミが長時間プレイを用意した狙いと、ゲームの安定した技術力が組み合わさって、シリーズの新しいスタイルができあがり、プレイヤーに新しい「サイレントヒル」の魅力を強く印象づけています。
今後は製品版の完成度と、アクション寄りシステムがファンにどう受け止められるかが注目です。現時点では、シリーズファンだけでなく多くのゲーマーにとって期待できる作品です。




