テンセントがソニー提訴に反論『Light of Motiram』の『Horizon』著作権侵害を否定

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テンセントは、自社が開発中の新作『Light of Motiram』が『Horizon』シリーズの著作権などを侵害しているとするソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、ソニー)の訴訟に対し、正式に反論しました。テンセント側は、ソニーの主張を「驚くべきもの」と表現し、そもそも『Horizon』自体が完全に独創的な作品ではなく、ソニーはゲームジャンルで広く使われる表現を不当に独占しようとしていると主張しています。

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ソニーの「クローン」主張に対するテンセントの反論

この訴訟は、2025年7月にソニーがカリフォルニア州連邦裁判所に提訴したことに端を発します。ソニーは、『Light of Motiram』が『Horizon Zero Dawn』および『Horizon Forbidden West』の「奴隷のようなクローン(slavish clone)」であり、プレイヤーが同一シリーズの作品であると誤解する可能性があると主張していました。

今回の訴訟では、ゲームに関わる二つの知的財産権が争点となっています。著作権は、キャラクターデザインやストーリー、アートスタイルなど、ゲームの具体的な表現を保護する権利です。一方、商標権は、ゲームタイトルやキャラクター名(例:アーロイ)など、製品を識別するための標識を保護します。

これに対しテンセントは、ソニーの訴えは「驚くべきもの」であると反論。The Game Postが報じたテンセントの回答によると、ソニーは、他の多くのゲームにも見られる一般的なコンセプトを無視し、「どこにでもあるジャンルの要素を独占的な資産に変えようとしている」と批判しています。

「『Horizon』は独創的ではない」とするテンセントの主張

テンセントは反論の中で、ソニーの訴訟が「海賊版、盗作、または知的財産への真の脅威と戦うことを目的としたものではない」と指摘。むしろ「大衆文化のよく踏まれた一角を囲い込み、ソニーの独占領域だと宣言するための不適切な試み」であると強く非難しています。

この主張の背景には、知的財産法における重要な原則があります。一般的に、著作権は具体的な表現を保護しますが、抽象的なアイデアやコンセプトは保護しません。「ポストアポカリプス世界」や「機械的生物」といったジャンル的要素それ自体は、通常は著作権保護の対象とはなりにくいとされています。法的には「scènes à faire」(不可避的表現)として、特定ジャンルで一般的に使用される要素は保護されにくいという考え方が存在します(Satava v. Lowry, 323 F.3d 805, 9th Cir. 2003)。

その根拠として、文明崩壊後の世界や機械の動物といった要素は、『Horizon』シリーズ以前から数多くの作品で採用されてきたと主張。具体例として以下のタイトルを挙げています。

  • 『Enslaved: Odyssey to the West』
  • 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』
  • 『ファークライ プライマル』
  • 『ファークライ ニュードーン』
  • 『Outer Wilds』
  • 『Biomutant』

テンセントは、未発売のプロジェクトを訴えるソニーの行為は、これらのゲームで広く受け入れられている「昔からある表現方法」に対する不当な独占の試みであると主張しています。

開発陣も『Enslaved』との類似性を認識か

さらにテンセントは、ソニー自身が『Horizon』のアイデアが完全に独創的ではないことを開発段階で認識していた可能性を指摘しています。テンセントが引用したドキュメンタリー映像によると、『Horizon Zero Dawn』のアートディレクターであるJan-Bart van Beek氏が、企画段階で本作がバンダイナムコの2010年の作品『Enslaved: Odyssey to the West』に似すぎているという懸念があったと語っていたとされています。

『Enslaved: Odyssey to the West』は、Ninja Theoryが開発し、バンダイナムコゲームスが発売したアクションアドベンチャーゲームです。荒廃したポストアポカリプス世界で、主人公モンキーと女性キャラクター・トリップが協力して旅をする物語を描いており、機械的な脅威が存在する世界観が特徴的です(Bandai Namco公式アーカイブ、確認日時:2025年09月19日11:00)。

この点を踏まえ、テンセントは「ソニーはそのアイデアが斬新ではないことを十分に認識しながら、後にプロジェクトを復活させた」と主張。『Horizon Zero Dawn』が2017年に発売された際にも、ゲームコミュニティから『Enslaved』や他のジャンルの定番作品との類似性が指摘されていたと述べています。

ゲーム業界における類似性訴訟の前例

ゲーム業界では、作品の類似性を巡る訴訟が複数存在しており、その判断基準は複雑です。侵害が認められた例として『テトリス』関連訴訟があり、具体的な画面構成やブロック形状の継承が問題となりました(Tetris Holding v. Xio Interactive, 863 F.Supp.2d 394, D.N.J. 2012)。一方、非侵害とされた例では『ストリートファイターII』対『ファイターズヒストリー』訴訟があり、格闘ゲームの一般的要素は保護されないと判断されています(Capcom v. Data East Corp.1994)。

これらの前例を踏まえると、今回の訴訟でも、どこまでが保護される「具体的表現」で、どこからが保護されない「ジャンル慣習」なのかが重要な争点になると考えられます。

ソニーが指摘していた具体的な類似点

ソニーが当初提出した訴状では、『Light of Motiram』が著作権および商標権を意図的に侵害していると主張されていました。類似点として、以下の要素が挙げられています。

  • 若く赤毛の女性主人公
  • 文明が崩壊したポストアポカリプスの世界
  • 巨大なロボット動物が存在する中で、部族グループが生き残るために戦うという設定

ソニーはこれらの共通点により、『Horizon』シリーズが持つ登録著作権と、主人公「アーロイ」のキャラクター商標が侵害されたと訴えていました。また訴状では、テンセントが『Light of Motiram』の開発に着手した後、ソニーに新たな『Horizon』作品の共同開発を打診したものの、ソニー側がこれを断ったという経緯も明かされています。

『Horizon Zero Dawn』は2017年にソニーが発売したオープンワールドアクションRPGで、主人公アーロイが機械化された動物が支配するポストアポカリプス世界を冒険する作品です。続編『Horizon Forbidden West』は2022年に発売され、両作品ともGuerilla Gamesが開発を担当しています。

訴訟の対象となった『Light of Motiram』とは

今回、訴訟の対象となっている『Light of Motiram』は、テンセントの子会社であるPolaris Questが開発を手がけるオープンワールド型のサバイバル・クラフトゲームです。文明崩壊後の荒野を舞台に、プレイヤーは過酷な環境で生き抜くために探索、建築、戦闘、育成を行います。100種類以上におよぶ機械獣(メカニマル)を育成し、戦闘や資源収集のパートナーとして活用できます。各メカニマルには固有のスキルや潜在能力があり、カスタマイズすることで独自の戦術を展開できます。


出典:Polygon

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