UbisoftはParis Games Week 2025で、『アサシンクリード シャドウズ』の炎上対応を振り返る184秒の社内ビデオを公開しました。イヴ・ギユモCEOは「批判者への注力を停止し、ファンを味方につけた」と戦略転換を明かし、ゲーム延期と大量プレビュー公開で勢いを取り戻したと主張しています。
Paris Games Weekで異例の炎上総括
ギユモCEOは先週開催されたイベント「Paris Games Week 2025」(2025年10月30日~11月2日)にて、当初予定していた技術トークを変更し、炎上対応の経緯を説明する社内ビデオを上映しました。「何が起きたのか多くの質問を受けてきた。だから今日このビデオをお見せする」と前置きし、英語ナレーションの184秒映像を流しました。
ビデオの核心は3つのフレーズに集約されます。「憎む者への注力を停止しなければならなかった」「味方(ファン)を起動する必要があった」「メッセージではなくゲームとして証明する戦い」です。Game Fileが入手した音声によると、ナレーターは「伝説的フランチャイズが最も期待された体験を公開したのに、誰もが憎むゲームになってしまったら?」と問いかけ、2024年9月時点で「背水の陣だった」と振り返っています。
対応戦略の核心は「ファン重視への転換」
Ubisoftの対応は3段階で進められました。第1段階は2024年9月のゲーム延期発表です。ビデオは延期を「誰もが助言しないような最後の選択肢だった」と振り返りつつ、「ファンが期待する高水準に到達するため磨き上げと最適化が必要だった」と説明しています。第2段階として、シリーズファンが求める要素を前面に出した大量のプレビュー素材を公開しました。第3段階では、クリエイターやメディア、ファンに開発現場へのアクセスを開放し、「数週間で数千点の素材を制作した」としています。
ギユモCEOはビデオ上映後の発言で、「当初は攻撃の規模に驚いた。しかしすぐに気づいた。これはファンとの戦いであり、私たちが実際にはメッセージではなくゲームであることを証明する戦いだった」と述べました。この発言は仏語で行われ、Game Fileが英訳の正確性をUbisoftに確認済みです。
同社は「約束から証明へ」方針を転換し、リークを恐れるのではなくゲームそのものを見せることを選びました。社内ビデオは「味方が傍らにいることで、再び自信を得た。堂々と立ち、リスクを取り、最も声高な憎む者に対しても声を上げられるようになった」と総括し、発売時には「勢いが味方についた」としています。なお前作Star Wars Outlawsの売上が期待を下回ったことも報じられており、連続失敗回避が延期判断の背景にあった可能性が指摘されています。
炎上の発端と日本での批判内容
炎上の時系列は以下の通りです。2024年5月に初回トレーラーが公開されると、黒人侍の弥助(やすけ)を主人公とすることへの批判が発生しました。9月に「背水の陣」状態となり延期を発表、2025年3月20日に発売されました。Ubisoftは「勢いを取り戻した」としていますが、売上データは公開されていません。
日本では弥助の歴史的位置づけをめぐる論争が起きました。Japan Forwardの検証によると、批判の焦点は以下の通りです。
- 弥助は織田信長の従者(荷物持ち)で、本能寺の変後の記録はほぼ皆無
- 2019年にトーマス・ロックリー(日本大学准教授)らの著書で「伝説の侍」として描かれ、これが誤解を広めたとされる
- Wikipedia「弥助」項目に「弥助は侍」との記述が繰り返し加筆され、編集者がロックリー本人ではないかとの疑惑がある
- ロックリー氏がゲーム開発に直接関与したかは明らかになっていませんが、Ubisoftポッドキャストには出演しています
文化盗用批判も噴出しました。Ubisoftは日本メディア向けインタビューで、弥助起用の理由を「”私たちの侍”、つまり日本人ではない私たちの目になれる人物を探した」と説明しましたが、この発言は「日本人排斥」と受け止められ、後に記事から削除されています。
日本描写の不正確さと著作権問題も相次いで判明しました。関ケ原古戦場おもてなし連合「関ケ原鉄砲隊」の旗が無断使用され、Ubisoft日本支社が謝罪しました。同社はコレクターズエディションのアートブックへの収録を除き、今後の使用を中止するとしています。また二条城の屏風画や東大寺の八角燈籠と思われる文化財の盗用疑惑、AI生成と見られるコンセプトアートに現代の軽トラックやガードレールが写り込む問題、パリのジャパンエキスポで漫画『ワンピース』のゾロの刀「三代鬼徹」を「弥助の刀」として展示した事例などが指摘されました。日本向け動画に中国語字幕のみが付けられたことも重なり、日本だけでなく中国や韓国からも「アジア軽視」との批判が上がり、日中韓で意見が一致する異例の事態となりました。
Ubisoftが「応えなかった」批判
社内ビデオとギルモCEOの発言は、炎上の具体的内容には触れていません。以下の対比が浮かび上がります。
Ubisoftが強調した点
- ゲームの品質向上(磨き上げ・最適化)
- ファンが期待する要素への注力
- 「イデオロギー論争」からの脱却
言及を避けた点
- 著作権侵害(関ケ原旗・文化財盗用疑惑)
- 日本描写の不正確さ(AI生成・三代鬼徹事件)
- 文化盗用の具体例(「日本人ではない私たちの目」発言)
Game Fileは社内ビデオを「かなり企業的だが非常にドラマチック」と評しています。Ubisoftは「勢いが味方についた」と主張していますが、売上データは公開されておらず、客観的な検証は困難です。ギユモCEOは「ファンが期待するものを発見し擁護できるようにすることが目標」と述べ、ファン重視戦略の継続を示唆しました。




