米国の市場調査会社Circanaの著名アナリスト、マット・ピスカテラ氏が、近年のゲーム市場における消費行動の二極化について分析を示しました。同氏によれば、70ドルで販売されるAAAタイトルは、主に「より裕福な人々」が購入する商品になりつつある一方で、物価高騰の影響を受ける多くのプレイヤーは、より手頃な無料プレイ(F2P)ゲームやサブスクリプションサービスへと移行しているとのことです。同氏はこの現象を、ゲーム市場における「K字経済」と位置付けています。
「より裕福な層」と一般層で進む消費の二極化
大手市場調査会社Circanaに所属するベテラン業界アナリストのマット・ピスカテラ氏は、ポッドキャスト番組「Delayed Input」に出演し、現在のゲーム市場がプレイヤーの経済状況によって二極化しているとの見解を示しました。
GamesRadar+がまとめた内容によれば、同氏は特に70ドルという価格設定が一般的になったAAAタイトルの消費動向に注目し、「こうした作品は依然として“より裕福な層(more affluent people)”に支えられている」と指摘。一部のより裕福な層はこれまでと変わらず購入を続ける一方で、それ以外の多くのプレイヤーは別の選択肢を探し始めていると分析しています。
なぜ二極化は起きるのか?背景にある「静かなインフレ」
この消費行動の分離は、ゲーム市場だけの問題ではありません。ピスカテラ氏は、食費や住居費といった日常生活におけるコストの上昇が、プレイヤーの可処分所得を圧迫していることが根本的な原因だと説明します。日々の生活費が重くなるなかで、趣味であるゲームへの支出もより慎重にならざるを得ない状況が生まれており、こうした経済的背景がプレイヤーごとに異なる消費の選択を促しているという見方です。
一方で、より裕福な層の消費行動についてピスカテラ氏は「静かなインフレ(quiet inflation)」という言葉を用いて説明しています。これは、コンソールのような購入頻度の低い製品カテゴリーにおいて、価格が上昇していても本人が気づかない、あるいはあまり注意を払わないまま購入を続けてしまう現象を指します。十分な経済的余裕があるため、価格変動を強く意識することなく、これまで通りの消費を続ける傾向があるというわけです。同氏はこの点について「人々はただ気付いていない。注意を払っていないからだ」ともコメントしています。
具体的な消費行動の違いとは
ピスカテラ氏は、こうしたより裕福な層について「『Ghost of Yōtei』に70ドルを支払うことや、PS5に以前より多く支払うこと、あるいはSwitch 2を買うことにも何の問題も感じていない」と具体例を挙げています。こうしたプレイヤーにとって70ドルのAAAタイトルは、価格に敏感になる対象ではなく、これまで通り楽しみ続ける娯楽の一つとして認識されているとみられます。
その一方で、家賃や食料品価格の上昇に直面しているプレイヤー層は、より手頃なエンターテインメントへと移行しています。ピスカテラ氏によると、こうした層は『フォートナイト』や『Roblox』に代表される無料プレイ(F2P)タイトルに流入しており、初期投資なしで始められる手軽さがコストに敏感な層のニーズと合致しているといいます。
F2Pタイトルと並んで、もう一つの重要な選択肢となっているのがサブスクリプションサービスです。ピスカテラ氏は、Xbox Game Passのようなサブスクリプションにプレイヤーが向かい、高価格帯のゲームを小売価格で購入することを控える傾向があるという仮説を示しています。さらに、Nintendo Switch OnlineやPlayStation Plusといったメンバーシップサービスが2025年を通じて堅調な成長を続けているとも述べています。
ゲーム市場で進行する「K字経済」
この一連の動きは、ピスカテラ氏が「K字経済(K-shaped economy)」と呼ぶ現象そのものです。K字経済とは、一部の層の経済状況が上昇する一方で他の層が下降し、中間層が失われていく状態を指します。ポッドキャスト内でKyle Bosman氏は、この状況を「rich get richer and poor getting poorer… and there’s just nobody in between」と表現しており、中間層が痩せていく構図が強調されています。
ゲーム市場においても、高額な新作をほぼ迷いなく買い続ける層と、無料ゲームやサブスクリプションを活用してコストを抑える層へと、プレイヤーが明確に分かれつつあると同氏は分析しています。こうした分析からは、70ドルという価格が単なる数字以上の意味を持ち、プレイヤー層をふるいにかけ、市場構造そのものに影響を与えつつある可能性がうかがえます。高価格帯のAAAタイトルと、基本プレイ無料や定額制サービスという二つの極が今後どのように影響し合っていくのか、その行方が注目されます。




