12月開催の「The Game Awards 2025」にて、Game of the Year(GOTY)を含む計9冠を達成したRPG『Clair Obscur: Expedition 33』。ところがその直後、別アワードである「Indie Game Awards 2025」(以下、IGA)において、同作の受賞が取り消される事態が起きました。
IGA運営委員会は、開発工程での生成AI利用が規定に抵触したとして同作を不適格(disqualified)と判断し、GOTYおよびBest Debut Gameの2部門受賞を撤回しました。なお、The Game Awards側の受賞結果については、現時点で影響は確認されていません。
製品版に残っていないAI素材でも「不適格」――判断基準は“工程”に
今回の取り消しで注目されるのは、生成AIによる素材が製品版には残存していなかったとされる点です。開発元のSandfall Interactiveによれば、開発初期に生成AIで作成した「数点のテクスチャ」を仮素材(プレースホルダー)として使用したものの、発売から5日以内に配信されたパッチで当該素材はすべて削除・差し替え済みだと説明しています。
しかしIGAは、製品版への残存有無ではなく、「開発プロセスに生成AIが介在した事実」を問題視しました。結果として、完成品から除去されていたとしても不適格とする、厳格な運用が示された形です。
提出時の申告と実態の齟齬――誓約違反が決定打に
不適格判断の決定打となったのは、応募時の申告内容と実態の不一致だとされています。IGA側の説明では、Sandfall側はエントリー時に「開発に生成AIを使用していない」旨の項目に同意していた一方、授賞式当日にAI利用の事実が確認されたといいます。
開発元は「QA(品質管理)工程でのミスにより、一時的な仮素材が意図せず製品版へ混入した」と釈明していますが、IGA側は方針を変えていません。誓約に反して工程内でAI利用があったことが、受賞取り消しにつながった格好です。
「誠実さ」か「効率」か――クリエイター間で割れる評価
この裁定をめぐっては、著名な開発者の間でも意見が分かれています。元Rareの開発者クリス・シーバー氏は、(仮を含む)実アセットへの生成AI利用を「手抜き(lazy)」と批判し、少なくとも実制作に組み込むべきではない、という趣旨を示しました。
対照的に、生成AIを効率化ツールとして肯定的に捉える声も根強く存在します。『Kingdom Come: Deliverance II』のディレクター兼リードライターであるダニエル・ヴァヴラ氏は、今回の件とは別に、AIが開発の“退屈で時間のかかる作業”を肩代わりし、少人数でも開発期間を短縮できるなら賛成だ、との見解を示しています。騒動をきっかけに、インディーゲームにおける「創作の誠実さ」と「実務上の効率化」のどちらを優先すべきかという、業界内の深い価値観の対立が改めて浮き彫りになりました。
「AI不使用」は信頼の前提になりつつある――インディーの“相場観”の変化
今回の一件は、インディーゲームが「完成品の品質」だけでなく、「制作工程の透明性・清廉さ」によっても評価される局面に入りつつあることを示しました。とりわけ、アワードやプラットフォームが応募条件として「AI不使用」を掲げる場合、たとえ一時的な仮素材であっても、発覚した時点で受賞資格や作品の正当性を失いかねない重大なリスクになります。
日本の開発者にとっても、意図しない素材混入や申告不備が規約抵触を招き、ブランド価値を毀損し得ることを示す事例と言えるでしょう。



