Polygonは2026年2月9日、ゲームジャーナリストのKeza MacDonald氏による新刊『Super Nintendo』(Penguin Random House刊)の独占抜粋を掲載しました。この抜粋には、『ゼルダの伝説』シリーズプロデューサーの青沼英二氏とディレクターの藤林秀麿氏へのインタビューが収録されています。両氏は、2011年の『スカイウォードソード』を転機として設計思想がどのように変わり、Switch世代の技術進化が何を可能にしたかを語りました。
「従来のゼルダに飽きたのではないか」——青沼氏の気づき
青沼氏は2013年のインタビューで、『スカイウォードソード』後の心境をこう振り返りました。
「『スカイウォードソード』を作ったとき、インターネットでコメントを見て、ユーザーが従来のゼルダに飽き始めたのではないかと思いました。次にやるべきことが常にわかるような手取り足取りのシステムを入れることが大事だと考えたのです。でも違うのかもしれない——ゲームの中で迷い、自分で何をすべきか考えるのもまた楽しいのではないか、と」 ——書籍『Super Nintendo』(Polygon掲載抜粋)より
シリーズは長年、ダンジョンでアイテムを入手し新たなエリアへ進む、という定型を守ってきました。青沼氏の発言は、プレイヤーを導くことが大事だと考えてきた自身の方針への疑問を示すものです。
翌2014年にはOfficial Nintendo Magazineに対しても「最近のゼルダはかなりリニアだった。プレイヤーが迷うのを嫌がると思っていた」と述べています。『神々のトライフォース2』でアイテムをレンタル制にし攻略順を自由にした経験から、伝統的なアプローチを疑問視するようになったと語りました。
2016年のE3では、Polygonに対し「迷うことはそんなに悪くない。何でもしたいことができる選択肢があって迷えるのは、実はちょっと楽しい」と語りました。『スカイウォードソード』のファンからは「隠し要素が見つけられなかった」「なぜここに行けないのか」といった反応があったとし、より広大な世界を作る判断はそうした声に大きく形作られたものだと説明しています。
Switchの技術進化が実現したもの
藤林氏は2023年のインタビューで、ハードウェアの進化が設計に与えた影響を具体的に語りました。
「『スカイウォードソード』と比べて、Switchではハードウェアが進化し、活用できる新たな可能性がありました。『スカイウォードソード』ではできなかったことが、『ティアーズ オブ ザ キングダム』では可能になっています。空と地上、さらには地底とのシームレスな移動……。地面を通り抜けたり、オブジェクトを組み合わせたりすることもできます。こうした要素はずっと以前から入れたかったのですが、当時の制約のために実現できなかったものです」 ——書籍『Super Nintendo』(Polygon掲載抜粋)より(筆者訳)
「『ティアーズ オブ ザ キングダム』の空・地上・地底をシームレスにつなぐ構造は、浮島と地上が分離されていた『スカイウォードソード』の構想を技術的に実現したものだと読み取れます。藤林氏の発言は、かつて断念した要素が十数年を経て実装に至った経緯を伝えています。
青沼氏もシームレスな体験がゲームデザインに大きく影響したと述べました。「以前は入口と出口が必要で、だからダンジョンがあった。でも今はすべてつなげられる。ハードウェアの進化によって自由が可能になり、それがデザイン面にも好影響をもたらした」と書籍の中で語っています。
藤林氏は2017年のGDC講演「Change and Constant — Breaking Conventions with The Legend of Zelda: Breath of the Wild」でも、設計概念を明かしていました。同氏はこれを「multiplicative gameplay(掛け算のゲームプレイ)」と呼び、オブジェクトがプレイヤーの行動に反応し、オブジェクト同士も影響し合う仕組みを目指したと説明。初代『ゼルダの伝説』を参考にした2Dプロトタイプで、草を燃やす・丸太で川を渡るといった実験を重ねたとIGNは報じています。
「苦行の伝統」とアイデアの蓄積
ゼルダシリーズの開発では、アイデアを使い切れないまま次作に持ち越すことが繰り返されてきました。故・岩田聡氏は任天堂公式のインタビュー企画「社長が訊く」で、「『ゼルダ』シリーズはつくってる途中で苦行のようになるというのは、伝統かと思っていたんですけど」と語っています。Polygonの抜粋ではこの言葉が”exercise in suffering”として紹介されました。
藤林氏は2023年のインタビューでこの指摘に同意しています。『ブレス オブ ザ ワイルド』の完成後、同じ開発環境で新たな可能性を試すなかで、自動で動くギアを板に取り付ければ車が作れること、リモコンバクダンで砲台を作れば物体を飛ばせることに気づいたといいます。既存の仕組みだけでも大きな可能性があると感じ、続編として発展させる着想に至ったと語りました。その点で青沼氏とも方向性が一致していたとのことです。
『ブレス オブ ザ ワイルド』は3,100万本超、続編の『ティアーズ オブ ザ キングダム』は発売から3日間で1,000万本を販売しました。書籍が「通好みの選択肢」と評する時代を経て、シリーズは設計思想の転換と技術の進化により任天堂屈指のヒット作となっています。
※本記事はPolygonの掲載する書籍抜粋・インタビュー引用をもとに、関連情報を加えて再構成しています
出典
- Polygon:Zelda creators unpack the “exercise in suffering” that inspired Tears of the Kingdom
- 任天堂 / 社長が訊く:携帯機ゼルダの歴史篇
- Polygon:Breath of the Wild is learning from Skyward Sword’s haters
- IGN:GDC 2017: Breath of the Wild Team Built 2D Zelda Prototype to Test Gameplay
- GameSpot:Legend of Zelda producer not afraid of questioning the franchise’s traditions




