任天堂の代表的なゲーム開発者である宮本茂氏が、「ゲームは芸術作品ではなく“商品”である」と捉えていることが、あらためて注目を集めています。これは、2025年7月に行われた任天堂の株主向けQ&Aでの発言がきっかけです。
宮本氏はこの場で、「現場には常に『上司ではなく、お客様を見て仕事しろ』と言っています。」(出典:任天堂 第5期 定時株主総会 質疑応答)と語り、ゲームづくりの中心にプレイヤーの満足を置くことの大切さを強調しました。
元任天堂開発者・今村氏が語る「商品としてのゲーム観」
この発言を受けて、元任天堂のデザイナーである今村孝矢氏が自身のSNS(X)で次のようにコメントしました。
「宮本さんは美術大学で工業デザインを学ばれており、ゲームを“作品”ではなく“商品”として捉える考え方をされています。その視点が、よりユーザーに寄り添ったゲーム作りにつながっているのだと思います。」
ここで言う「商品」とは、単に売るためのものという意味ではなく、使う人(プレイヤー)にとって価値ある体験を届けるものという考え方です。
工業デザインの背景が生んだ“遊びの設計”
宮本氏は金沢美術工芸大学で工業デザインを学び、1977年に任天堂へ入社しました。当初はおもちゃのデザイナー志望だったこともあり、「人がどのように使うか」を大切にした設計を重視してきました。
たとえば『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』では、操作のしやすさや遊び方の分かりやすさ、誰もが楽しめる仕組みが意識されており、これはまさに「商品」として完成度の高い体験を目指した結果だといえます。
また、任天堂は「ゲーム人口の拡大」という目標のもと、幅広い世代が楽しめる遊びを大切にしてきました。宮本氏の考え方は、そうした会社の方針とも一致しています。
「芸術」か「商品」か——ゲームをめぐる考え方
ゲームは映像や音楽、物語、演出などさまざまな要素を含み、「芸術」として評価されることも多くあります。実際、アメリカのスミソニアン博物館では2012年に「ゲームはアートである」と題した展覧会が開催されました。
一方で、ゲームは私たちがお金を払って手にする体験でもあります。そのため、作り手にとって「商品」としての視点を持つことは、使いやすさや楽しさを追求する上で重要な役割を果たします。
宮本氏のように、芸術性と実用性のバランスを考えたゲーム開発の姿勢は、これからの業界にも多くのヒントを与えているといえるでしょう。




