大手ゲームパブリッシャーUbisoftの英国法人が、今後の収益減を見込む戦略レポートを英国の法人登記機関に提出し、ゲーム市場が大きな転換点を迎えている可能性を示しました。このレポートは「一部の注目作を除き、多くの新作はかつてほどの売上を達成できていない」と指摘し、その背景としてサブスクリプションサービスの普及など、プレイヤーの行動そのものの変化を挙げています。こうした変化は、果たしてUbisoft一社だけの問題なのでしょうか。
Ubisoft UKが収益減を警告、市場の変化を指摘
Ubisoftの英国法人であるUbisoft Limitedは、2025年11月13日付で提出した戦略レポートの中で、2026年3月期(FY26)に向けて売上が減少する見通しを示しました。同社は人気シリーズ『アサシン クリード』などで知られる大手パブリッシャーであり、その警告は業界の現状を映すものとして注目されています。
レポートでは、収益減の要因の一つとして、パッケージ版など物理メディアの販売不振に加え、来期の物理パッケージ新作のリリーススケジュールが比較的小規模にとどまることが挙げられています。実際に英国の物理ゲームソフト市場は、2025年3月までの1年間で約35%縮小したとされており、Ubisoft Limitedはこの逆風をもろに受ける形です。
また、同社の直近決算では、売上全体はカスタマーサポート部門の統合などもあって前期比11%増となったものの、その内訳を見るとパッケージなど「物」の売上は29%減少しています。表面上の成長とは裏腹に、伝統的な物理パッケージ販売が大きく縮小していることが数字から読み取れます。
新作が苦戦する理由をUbisoftレポートから整理
レポートは、現在の市場について「消費者はより少ないゲームを、より長くプレイする傾向にある」と分析しています。その結果として、「一部の注目作を除き、多くの新作はかつてのような売上を達成するのが難しくなっており、市場はより不安定で、個々のタイトルの成否も予測しづらくなっている」と、厳しい認識を示しました。
こうした構造を生み出している要因として、レポートは複数の変化を挙げています。伝統的な「フルプライスの買い切り型」モデルは「以前ほど一般的ではなくなっている」とし、マルチゲーム型サブスクリプションサービス、長期運営型のゲーム・アズ・ア・サービス(GaaS)、基本プレイ無料タイトル、クラウドストリーミングといった形態が、プレイヤーに新たなアクセス手段を提供していると説明しています。
例えばXbox Game Passのような月額制サービスを利用すれば、新作を1本ずつ購入しなくても、多数のゲームにまとめてアクセスできます。また、『フォートナイト』に代表される長期運営タイトルや基本プレイ無料のゲームは、継続的なアップデートによってプレイヤーの時間と関心を長期的に引きつけており、従来の「買い切り型ゲーム」から見れば、きわめて強力な競合相手になっていると言えます。
他社データと専門家の声が示す「新作離れ」の傾向
Ubisoftの指摘は、決して同社だけの悩みにとどまらない可能性があります。市場調査会社Circanaが実施した調査によると、米国のゲームプレイヤーのうち約63%が「1年間に購入するゲームは2本以下」と回答しています。 つまり、多くのプレイヤーが「買う本数」を絞り、限られたタイトルを遊び続けていることが、データの上からも確認できます。
また、元BioWareのゼネラルマネージャーで、現在はInflexion GamesのCEOを務めるAaryn Flynn氏も、ライブサービスやサブスクリプションの影響について懸念を示しています。サバイバルゲーム『Nightingale』に関するメディア向けプレビューの場で、同氏は「現在のプレイヤーは、“エバーグリーン”と呼ばれるタイトルへ摩擦なくアクセスできる」と述べ、『GTAオンライン』や『フォートナイト』のようなライブサービス作品、さらにはGame Passのようなサービスには「重力」のような引力が働いていると説明しました。 そのうえで、こうした存在が新作タイトルの立ち上がりに大きな影響を与える「見落とされがちな力」になっていると語っています。
プレイヤーと開発者にとっての意味
こうした市場の変化は、プレイヤーと開発者の双方に影響を与えています。プレイヤー側から見ると、サブスクリプションを利用すれば比較的低コストで多様なゲームに触れられる一方で、1本の新作に数千円を支払う決断については、以前より慎重になる人が増えていると考えられます。サブスクやF2Pタイトルを中心に遊ぶスタイルであれば、「年に数本だけパッケージを買う」という行動はごく自然な選択と言えるでしょう。
一方で、特に大規模な予算を投じてAAAクラスの作品を開発するスタジオにとって、この状況は無視できません。Ubisoftは今回の英国法人のレポートとほぼ同時期に、本社レベルでも2025〜26年度上期決算の発表を延期し、Euronextに対して株式と社債の取引停止を要請したことを明らかにしています。 この異例の対応について、Notebookcheckや金融メディアなど一部では、同社の業績回復シナリオに対する不透明感や懸念が強まっていると報じられました。
さらに、2025年1月には英国レミントン拠点の閉鎖と、Ubisoft DüsseldorfやUbisoft Stockholm、Ubisoft Reflectionsなど欧州スタジオの再編が発表され、合計185人の雇用に影響が出ると伝えられています。 物理パッケージ市場の縮小や開発投資の肥大化が重なるなか、グループ全体としても厳しい事業環境に向き合っていることがうかがえます。
ただし、こうした状況認識は、あくまで大規模な売上を前提とする大手パブリッシャーの視点に基づくものです。開発費や売上目標の水準が異なるインディーや中小規模のスタジオに、同じ前提やリスクの構造をそのまま当てはめることはできません。市場の「新作離れ」が示しているのは、むしろ作品ごとの競争環境が一層二極化しつつある、という現実かもしれません。




