コナミデジタルエンタテインメントの是角有二氏(『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』クリエイティブプロデューサー)と岡村憲明氏(「メタルギア」シリーズ制作プロデューサー)が、新体制でシリーズを再始動させた理由と、リメイク版で何を変え、何をあえて変えなかったのかを改めて語りました。
「いまやらないとシリーズの復活は難しい」──新体制が下した決断
「メタルギア」シリーズを再び動かすべきかどうかは、社内で何度も議論され、そのたびに見送られてきたと岡村氏は語ります。「作るべきではないかという話が出ては消え、出ては消え」という言葉からは、偉大なシリーズを動かすことへの重圧と迷いがうかがえます。
それでも最終的に制作を決断した背景には、自分たちの年齢と、シリーズをよく知る開発者が徐々に少なくなっている現実がありました。『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』から約10年という時間が経ち、この先さらに世代交代が進めば、過去作の意図を理解したうえで継承できる人がいなくなるかもしれません。その危機感が、「いまやらないとシリーズの復活は難しい」という判断につながっています。
新体制は、過去作のノウハウを途切れさせないため、オリジナル版のソースコードやスクリプトを分析し、「なぜこう作られたのか」という設計意図を一つひとつ読み解いていきました。さらに、当時のスタッフから直接話を聞き、仕様の裏にある狙いを共有することで、新しいチームにもシリーズ特有の感覚を継承していったといいます。
どこを変え、どこを残したのか──リメイクの線引き
こうして走り出した『MGSΔ』の開発で、彼らが最初に決めたのは「何を変え、何を変えないか」という線引きでした。岡村氏は「グラフィックや操作性は現代向けに改善しましたが、物語やゲーム性はできるだけ当時のままにしています」と述べ、核となるストーリー体験とゲームプレイの骨格は守る一方で、操作性や快適さに関わる部分だけを現代基準に合わせたと説明します。
是角氏も、長い歴史を持つシリーズだからこそ「過去作への敬意を持ったものづくり」を強く意識していると語ります。原作の作り手が込めた思いやコンセプトを大切にしつつ、現代のプレイヤーに届けるために必要な調整だけを行う。新しい要素を次々と付け足して別物にするのではなく、元の設計を尊重したうえで快適さを引き上げる、というのが今回の基本方針です。
現代プレイヤーへの適応──具体的な改善点
とはいえ、当時の仕様をそのまま持ち込むと、現代のプレイヤーには遊びにくく感じられる部分も少なくありません。是角氏は、今回のリメイクで「ニュースタイル」と「レガシースタイル」という2種類の操作スタイルを用意した理由を、昔の操作でしか味わえない楽しさと、現代的な遊びやすさの両立だと説明します。前者は往年のファンが当時の感覚を再体験するための選択肢。対して後者は、シリーズを知らないプレイヤーの入口として機能するよう位置づけられています。
操作周りでは、カメラ操作の見直しや、カムフラージュの切り替えをワンボタンで行えるようにするなど、情報把握と基本操作のストレスを減らす調整も行われました。
現代のプレイヤーの遊び方に合わせた工夫を象徴するのが、「CQC(近接格闘アクション)のやり方がわからない」という若手スタッフの声を反映した事例です。原作ではザ・ボスが無線で操作方法を教えてくれますが、いまのユーザーは無線の会話をすべて聞くとは限りません。そこで、操作のTIPSを画面に表示する仕組みを追加し、重要な情報はプレイ中に自然と目に入るように変えました。無線前提の設計から、UI上で即時に伝える設計へのシフトは、「遊びやすさ」が時代とともに変化していることを示しています。
原作の思いを、次の世代へ
岡村氏は、今回のリメイクについて「過去作の思いを新しい世代に届けつつ、無理に新しい要素を付け足さない方針」と表現しています。派手な新機能で目を引くのではなく、原作の骨格を守りながら快適さだけを引き上げる。シリーズファンの信頼を損なわず、初めて触れるプレイヤーにも自然に入ってもらえるバランスを追求した結果が、『MGSΔ』の形だと言えます。
今後について岡村氏は、「せっかく『メタルギア』に触れてもらえる機会を作れたので、これを続けていきたい気持ちはある」としつつも、次にリメイクを手がけるのか、新作に挑むのか、その内容はまだ決まっていないと語っています。なお、『MGS4』のリメイクについては「特殊なコードになっていて、今持ってくるのは大変そう」とも述べており、技術的なハードルの高さを示唆しています。




