名作シミュレーションRPG『ファイナルファンタジータクティクス』が、強化版リマスター『イヴァリース クロニクルズ』として現代に蘇ります。本作には、グラフィックやユーザーインターフェースを一新し、加筆・調整を加えたストーリーをフルボイスで展開する「エンハンスド」と、オリジナル版をできるだけ忠実に再現した「クラシック」の2バージョンを収録。原作ファンと新規ユーザーの両方に向けた作品として位置づけられています。
今回は、本作の開発を手掛ける主要スタッフであるプロデューサーの松澤祥一氏(スクウェア・エニックス)、ディレクターの前廣和豊氏(スクウェア・エニックス)、そして原作脚本を手掛け、本作では脚本、加筆修正及び監修を担当した松野泰己氏(現在はフリーランス/Algebra Factory所属)のインタビュー記事から、本作に込められた想いとリメイクの工夫を紹介します。
企画が動き出したきっかけ
『FFXIV』とのコラボが再始動の出発点に
松澤氏によると、きっかけはオンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』で展開されたコラボイベント「リターン・トゥ・イヴァリース」でした。この取り組みを通じて原作スタッフが再び関わることになり、ディレクターの前廣氏が『FFT』のリマスターを提案したことが始まりだったそうです。
ただ、当時は他のプロジェクト──『FFXVI』や『FFXIV』の開発、松野氏が手がけた『タクティクスオウガ リボーン』──が進行中で、実際の制作が始まったのはそれらが一段落した後とのことです。
原作が描いた物語の深さ
社会の矛盾と「正義」の意味を問いかける
松野氏は、『FFT』が中世イヴァリース王国を舞台にした「ライオン戦争」の時代を描いていると説明します。物語の中心にあるのは、身分制度や差別、そして「何が正義なのか」という問いです。
主人公のラムザは貴族の出ながら、社会の矛盾に悩み、自分なりの正義を貫こうとします。一方、幼なじみのディリータは平民の立場から王へと登りつめ、別の形で歴史に名を残します。この2人の対比が、表に残る英雄と忘れられた真実というテーマを浮かび上がらせます。
原作の良さをそのままに、現代的な遊びやすさを加える
オリジナルと強化版、両方を収録
前廣氏は、「昔のままの雰囲気を大切にしたい」というファンの声を考慮して、クラシック版(原作準拠)の収録を決めたと話します。ただし、原作のままでは「懐かしさを味わうだけで終わってしまう」と懸念し、そうならないように現代のプレイヤーがしっかり遊び込める環境づくりにも力を入れたそうです。その結果として、原作の良さを保ちながら、現代的な快適さを加えた強化版が誕生したと話します。
今あらためて感じる、原作の完成度
ゲームシステムとストーリーの奥行き
松野氏は、ラムザという「歴史に記録されなかった主人公」を描いた点が、今でも印象深いと語ります。1997年当時、多くのゲームでは力強いヒーロー像が主流だった中で、苦しみながらも信念を貫いたラムザの存在は異色でした。
また、戦術面でもジョブシステムや高低差・向きが影響するバトルなど、戦略性の高さが光る作品だったと評価しています。
進化した機能と遊びやすさへの工夫
フルボイス対応や便利なUIを導入
今回の強化版では、すべての会話にフルボイスが追加され、台詞に合わせてシナリオも一部調整されています。さらに、ジョブツリーや装備比較など、キャラ育成や装備管理がわかりやすくなる機能が新たに実装されました。
ストーリー理解を助ける「クロニクル」や、戦況を広く確認できるタクティカルビュー、行動順を示すタイムライン、移動のやり直し機能など、バトル面でも多くの改良が加えられています。
前廣氏は「どれか一つだけが目立つのではなく、すべての要素をバランスよく組み合わせた」と語っており、現代のプレイヤーにとって理想的な形を目指したことがうかがえます。