ドイツのゲーム開発会社InnoGamesは、モバイルゲーム『Sunrise Village』のコンテンツ生成を約1年前にAIへ全面移行し、品質に関するプレイヤーからの苦情はゼロだったと、同社エンジニアリングディレクターのThomas Lehr氏がGamesIndustry.bizに語った。この移行に伴い、開発チームは約25人から2〜4人に縮小され、旧メンバーは新プロジェクトに異動している。AI移行がなければ同タイトルはサービス終了になっていたとLehr氏は述べており、収益低下が続くモバイルゲームの延命策として注目される事例だ。
チーム25人から最大4人へ――サービス終了を回避したAI全面移行
2021年にリリースされた農園シミュレーション『Sunrise Village』は、月間アクティブユーザー数がピークを過ぎ、収益も半減傾向にあった。2025年の月間収益はAppMagic推計で約16万〜19万ドル(ストア手数料・税金・マーケティング費用控除前)だ。一見すると少なくない額に思えるが、約25人のチームを維持する費用を差し引けば採算は厳しい。
Lehr氏によれば、同タイトルは「収益面で期待を下回って」おり、フルタイムのチームを維持する正当性をInnoGamesは見いだせなくなっていた。AI移行がなければサービス終了になっていただろうと同氏は述べている。AIによるコンテンツ生成への切り替えにより、チームは25人から2〜4人に縮小された。旧メンバーは新プロジェクトへ異動したという。
「結果がすべてを物語っています。AIや品質の違いに関するコミュニティからの苦情はゼロです。プレイヤーは変化にまったく気づいていないようです」とLehr氏は語っている。
アーティストが語るAI移行後の現場
AI移行を直接経験したアーティストはどう受け止めているのか。InnoGamesのシニアリードアーティストであるLémuel Wuibout氏は、『Sunrise Village』で約7人のアーティストチームを率いていた人物だ。同氏はAI移行後、新作『Cozy Coast』に異動している。
「とても満足しています。開発者たちが作り上げたツールや、それを機能させるためにやったことすべてに対して、かなりの敬意を持っています」
「物事がどう進んでいくかについて少し怖いと感じるのは当然のことです。まだ多くの未知の部分がありますから」
Wuibout氏は、コンセプトアーティストの役割が「結果を見極め、何が間違っているか、何を修正すべきかを理解する」方向に変化したと説明している。実際、影の付き方やライティング、プロポーションなど、AIが生成した画像には人の目による修正が必要だという。現時点ではAIに脅威を感じていないとしつつも、2年後、5年後、10年後に何が起きるかはわからないと将来の不確実性への懸念も表明した。
なお、『Sunrise Village』を担当していたコンセプトアーティストは新プロジェクトに異動しており、Wuibout氏自身も『Cozy Coast』でフリーランスのコンセプトアーティストを採用したと語っている。AI導入後もコンセプトアーティストという職種自体は存続している。
UnityにLLMを統合した「AI Stage Designer」の仕組み
コンテンツ生成の中核を担うのは、InnoGamesが「AI Stage Designer」と呼ぶカスタムツールセットだ。UnityにLLM(大規模言語モデル)を統合し、ストーリーとクエストの生成を起点に、バランス調整やアセット検索、レイアウト配置、オブジェクトスポーン、カットシーン生成まで、計6つの工程を処理する。約100種類のゲームアイテムの知識ベースを活用して建設要件やXP報酬、難易度スケーリングを自動算出する仕組みだ。
ベースモデルにはOpenAIのGPT-4oを採用している。Lehr氏によると、より新しいモデルは登場しているものの、安定性と予測可能性を重視してあえて更新していない。モデル変更のたびに大規模なテストが必要で、バージョンごとに挙動が大きく異なることがその理由だという。
初期開発には約2か月を要し、1〜2名のエンジニアが担当した。InnoGamesは2023年からScenario AIを導入してアート制作の生産性を2倍にしたと、同社アート部門責任者のDario Berruti氏がScenario.comのケーススタディで述べている。AIツール活用は社内で段階的に進められてきた。約1万点のビジュアルアセットに対する自動ラベリングも導入され、検索作業の効率が向上したとLehr氏は説明している。
業界の評価は二分――調査では84.2%が「AI生成アートは許容できない」と回答
Lehr氏は、AIによるコンテンツ生成が2年以内にモバイルゲーム業界で標準的な手法になるとの見通しを示している。導入しない企業は「深刻な競争上の不利を被ることになるだろう」とも語った。
一方、GamesIndustry.bizが826人の業界関係者を対象に実施した調査では、回答者の84.2%がアートやグラフィックスにAI生成コンテンツを使用することは許容できないと回答した。同調査では88.4%がデジタルストアでのAI使用開示を支持し、78.5%がAIを業務で使用していないとも報告されている。
開発の現場と業界全体の意識には大きな温度差がある。AIによるコンテンツ生成をモバイルゲームの消費者がどこまで受け入れるか、その答えはまだ出ていない。
※本記事はGamesIndustry.bizの報道をもとに、関連情報を加えて再構成しています




