「どのタイトルも一から作り直そう」。カプコンが属人的な開発から離れ、チームでゲームを作る方針へ切り替えた際に考えた方針として、辻本春弘氏が語った言葉だ。
一時的に売上が落ちてもかまわないという判断で、属人的な体制ではなく、チームでゲームを作る方針へ移行した。さらに、旧作がデジタル販売で売れ続けることで開発に余裕が生まれ、新規IPや休眠IPに人員を割けるサイクルにもつながっている。
属人的な開発から、チームで続ける体制へ
ファミ通.comのVIPインタビューで辻本氏がまず説明しているのは、シリーズが長く続くほど、特定の開発者に依存しやすくなるという問題だ。カプコンでもそうした状況は長く続いていたが、上場企業として株主への対応を考えたとき、属人的な開発に依存し続けるのは限界があると感じたという。
そこで、各タイトルの中心となっていた人たちと話し合い、属人的な開発スタイルをやめる流れになった。リードで触れた「どのタイトルも一から作り直そう」という方針は、この流れの中で出てきたものだ。辻本氏は、一時的に売上が落ちてもかまわないという判断で、属人的な体制ではなく、チームでゲームを作る方針へ切り替えたことで、カプコンは大きく変わったと説明している。
この転換によって、シリーズは特定の個人だけに依存するものではなく、チームでノウハウを積み上げ、次の世代へ受け渡していくものとして語られている。辻本氏は、『バイオハザード』が定期的に新規タイトルを出し、『モンスターハンター』も隔年でシリーズ作を出していること、『ストリートファイター6』がYear 3まで順調にリリースしていることを挙げる。これらは誰かひとりの考えで動いているのではなく、チームとして開発に当たっているため、蓄積されたノウハウが次の世代へ受け継がれていくという。
休眠IPの話に進む前に、この前提は押さえておきたい。カプコンは、シリーズを特定の開発者だけに依存させるのではなく、チームで作り、ノウハウを次の世代へ受け渡す体制へ切り替えた。そのうえで、後段では旧作が売れ続けるデジタル販売や人材採用が、休眠IPに人員を割けるサイクルとして語られていく。
旧作が売れ続ける構造が、新規IPと休眠IPに余裕を生む
休眠IPを掘り起こしたいという考えは、以前からあった。辻本氏は、ファミ通側が『鬼武者』『大神』『ロックマン』など過去からある資産のリブートについて質問した場面で、開発リソースには限界があり、人手が足りていなかったと説明している。
その状況を変えた要素として挙げられているのが、2017年ごろから本格化したデジタル販売への転換だ。辻本氏は、PS4がインターネットに常時接続するマシンになるという話をSIEから聞き、ゲーム販売のありかたが180度変わると確信したという。
従来は、小売店が「もう売らない」と判断すれば、そのゲームは店頭から消える。だが、デジタル販売なら、メーカーが自分たちで直接ユーザーに届け続けられる。ここで重要なのは、売り場が変わったことだけではない。発売から時間が経ったタイトルでも、ユーザーに届く状態を保てるようになったことだ。
カプコンが本格的にこの展開へ取り組んだのが、2017年1月発売の『バイオハザード7 レジデント イービル』だった。辻本氏によれば、『バイオ7』は発売から9年目を迎えたいまなお売れ続けており、2025年には年間260万本を販売した。発売から2年で開発費を償却し、3年目以降の売上は利益として積み上がっているという。
この積み上がりが、開発の余裕につながる。辻本氏は、『バイオハザード』や『モンスターハンター』シリーズの旧作が売れ続けることで利益が積み重なり、開発にも余裕が生まれると説明している。その余裕があるからこそ、『プラグマタ』のようにある程度の期間をかけて新規IPを作り出せるし、休眠IPに人員を割けるサイクルも構築できているという。
このセクションで見えてくるのは、休眠IPの再展開が単なる「掘り起こし」ではなく、旧作が売れ続ける構造に支えられているという点だ。以前は人手が足りず、手を伸ばしにくかった過去IPにも、デジタル販売によって積み上がる利益と開発余力が回るようになった。辻本氏の説明では、『バイオ7』のような旧作の継続販売が、新規IPと休眠IPの両方に時間と人員を生む仕組みとして語られている。
人材採用とデータ活用が、開発を継続できる形にする
旧作が売れ続けて利益が積み上がっても、それだけで新規IPや休眠IPを動かせるわけではない。実際に複数の開発ラインを走らせるには、そこに人を配置し、判断をチームで共有できる形にしておく必要がある。
辻本氏は、カプコンが毎年150人以上の新卒社員を採用していると説明している。その人材は、2〜3年後には各プロジェクトの中心で活躍する戦力へ成長していくという。人手が増えたことで、いまは複数の開発ラインを同時に進められる体制が築けていると語っている。
もうひとつの要素がデータ活用だ。辻本氏によれば、カプコンでは各タイトルの販売本数だけでなく、開発中に発生する細かな数字もすべてデータで記録するようにしている。取得したデータから得られた示唆を精査すれば、開発、マーケティング、プロモーションなどに活用でき、データに基づいた新たな戦略も構築できるという。
この話は、前段の属人的な開発からの脱却にもつながる。特定の開発者の経験や判断だけに寄せるのではなく、開発中の数字を記録し、チームで扱える材料にしていく。辻本氏は、そうしたデータ活用が“属人的な開発”からの脱却にもつながっていると説明している。
旧作が売れ続けることで生まれた余裕を、新規IPや休眠IPへ回すには、人材と判断材料の両方が必要になる。毎年の採用で開発ラインを支える人を増やし、データ活用で属人的な判断をチームの材料に変えていく。ここまでそろって初めて、休眠IPに人員を割けるサイクルが、単なる資金の話ではなく開発体制の話になる。
過去IPを、ゲームへ戻すための接点も広げている
休眠IPに人員を割けるようになったとしても、それだけで過去のシリーズがいまのユーザーに届くわけではない。辻本氏はインタビューの中で、“ワンコンテンツ”という考え方を20年ほど前から提唱してきたとも語っている。
カプコンのキャラクターコンテンツ、映像、eスポーツ、パチスロ、アミューズメント施設などは、その考えのもとで機能しているという。辻本氏は、カプコンのキャラクターをより多くの人に知ってもらい、さまざまなサービスや体験を通して、ゲームそのものにも興味を持ってもらえれば幸いだと述べている。
この話は、過去IPの再展開ともつながる。休眠IPを動かす話は、開発リソースやチーム体制だけでなく、そのキャラクターやシリーズをいまのユーザーにどう届けるかという話にもつながる。ゲーム外の接点は、IPをゲームから切り離すためではなく、最終的にゲームそのものへ興味を持ってもらうための入口として語られている。
その具体例として挙げられているのが『ロックマン』だ。辻本氏は、2027年にシリーズ最新作『ロックマン: デュアル オーバーライド』が発売予定であり、それに合わせてアパレルなどの展開も積極的に進めたいと語っている。ロックマンというキャラクターは、ゲームをしない層にも広く認知され、根強い人気があるとも説明されている。



