id Software共同創業者のJohn Romero氏が、初代『DOOM』の台湾での流通をめぐる異例のエピソードを明かした。当時、台湾では『DOOM』のコピーが広く出回っており、id Softwareは現地最大手の「pirates(海賊業者)」に自ら接触。『DOOM』の箱を非常に安い価格で大量に販売していたという。
Romero氏がQuakeCon 2026のオープニングパネルで振り返ったところによると、台湾では『DOOM』が盛んにコピーされ、それが当時の市場の実情だった。そこでid Software側から最大手の業者へ連絡し、「箱を買わないか」と持ちかけたところ、大量に購入してもらえたという。PC Gamerは、このとき販売されたものを中身のない「empty Doom boxes」と報じている。
Romero氏は、そうすることで「legitimate」にできたと説明している。コピー品が出回る市場から手を引くのでも、流通を止めようとするのでもなく、その中心にいた業者とid Software自身が取引したことになる。
こうした考え方の背景には、初代『DOOM』の特殊な販売方式があった。全3エピソードのうち最初の1エピソードはshareware版として無料で配布され、続きを遊びたいユーザーが残りを購入する仕組みだった。
当時は今のように、誰もがインターネットから簡単にゲームを入手できた時代ではない。shareware版はフロッピーディスクなどに収録され、第三者によって有料販売されることもあった。Romero氏によれば、同じshareware版を収めた異なる箱の商品が10種類ほど並ぶ店さえあったという。
id Softwareは、そうした販売を止めようとはしなかった。Romero氏は「金は払わなくていい。とにかく広めてくれ」という考えだったと振り返っている。shareware版そのものから利益を得るのではなく、それを遊んだ人が続きを注文したところで収益になる。第三者がゲームを各地へ届けることも、自分たちにとっては「distribution(流通)」だった。
Romero氏は過去にも、自身のサイトでアジアにおける海賊版流通への対応を記録している。そこではアジア版の『DOOM』と『Wolfenstein』のパッケージ写真を掲載し、海賊版が非常に広く出回っていたため、最大手の海賊業者に1コピーあたり1ドルという条件で販売権を売ったと説明。id Software側もわずかながら収益を得られ、相手側も「正規の商売をしているような気分になれた」という。

この旧アーカイブの「1コピー1ドル」の取引と、今回QuakeConで語られた台湾での箱の大量販売が同じ出来事だったのかは確認できない。また、Romero氏は今回、台湾でコピーされていた『DOOM』がshareware版だったのか、有料の登録版だったのかまでは説明していない。
それでも、Romero氏が今回の相手を明確に「pirates」と呼び、過去にもアジアの最大手海賊業者へ販売権を与えたと自ら記録していた点は興味深い。海賊業者をただ排除するのではなく、その流通力まで利用する。Romero氏が台湾での対応を「自分たちにとっては流通だった」と振り返るのも、当時のid Softwareが『DOOM』をまず広く届けることをどれほど重視していたかをよく表している。




