『魔法少女ノ魔女裁判』の発売前SNS展開では、ゲームシステムの説明そのものよりも、この作品に触れたときにどんな気分にさせられるのかが先に伝えられていた。「あなたの好きな子からいなくなるよう努力します」という強い言葉も、ただ露悪的に目を引くためだけのものではない。作品に入る前の段階で、このゲームがどんな感情体験を含んでいるのかを先に知らせる役目を担っていた。
「どの子からいなくなりますか?」で、何を先に届けていたのか
「どの子からいなくなりますか?」という問いに、「あなたの好きな子からいなくなるよう努力します」と返す。『魔法少女ノ魔女裁判』の発売前に話題になったこのQ&Aは、作品の情報を順に説明するというより、このゲームで味わうことになる感覚を言葉だけ先に差し出すようなものだった。週刊ファミ通2026年7月2・9日合併号 No.1952の特集「アドベンチャーゲームの現在地」には、藤澤仁氏と畑俊行氏の対談が掲載されており、同特集内のHATA’S KEYWORDでは、このやり取りが発売前に公式Xで展開していた投稿の一例として説明されている。
Acacia(アカシア)です。
— 魔法少女ノ魔女裁判 公式 (@13witch_Trials) April 22, 2024
質問に回答いたします。 pic.twitter.com/UQj1s8vef2
藤澤仁氏は対談の中で、あれはヒロインについて「死にます」としか言っていないようなものだと話している。これに対して畑俊行氏は、その「死にます」をあの手この手で言い換えていたのだと説明しており、そこで伝えようとしていたのは、ゲームメカニクスの中身ではなく、この作品に触れたときにどういう気持ちになるのかということだった。
畑氏は、自分たちが設計していたのは「悪意に触れたときの感情体験」だと述べている。ゲームの内容を細かく説明する前に、まず「このゲームを遊ぶとこういう気持ちになる」と伝える。あのQ&Aが担っていたのは、作品の仕組みを紹介することより先に、悪意に触れたときの感情や刺激を知らせることだった。
“持たざる者”だったからこそ、SNSで「映画館に客を入れるまで」を作った
畑俊行氏は対談の中で、『魔法少女ノ魔女裁判』の自分たちは“持たざる者”だったと振り返っている。発売までに使えた宣伝費は、プレスリリース代とPV制作費くらいだったはずだといい、だからこそSNSのようにお金のかからない場所で踏ん張るしかなかった。
その一方で、シナリオやキャラクターのおもしろさには自信があったとも話している。問題は、まだ誰にも知られていない作品にどうやって目を向けてもらうかであり、ゲームシステムを説明しても届かず、作り手の都合で順番に情報を並べるだけでは人は入ってこないと考えた末に、あの発信の形になっていった。
そこで畑氏が持ち出すのが、「映画館」というたとえだ。映画は、いったん客が入ってくれれば、基本的には最後まで観てもらえる。自分たちも、作品に入ってもらえさえすれば満足してもらえる物語は作れると思っていたからこそ、まず考えたのはゲームの説明そのものではなく、そこに入ってもらうまでをどう作るかだった。あのQ&Aは、そのための発想から生まれたものとして語られている。
藤澤仁氏が見た「計算ずく」と、その後の展開
藤澤仁氏は、畑氏たちのことを『魔法少女ノ魔女裁判』のSNSでの発信で知ったという。最初は、露悪的なことをして悪い意味で注目を集めようとしているようにも見えたが、見ているうちに印象は変わり、ラジカルなだけではなく「全部計算ずくでやっているな」と思うようになったと対談で話している。
藤澤氏は、自分たちも“第四境界”でSNSを使って人に伝えることをしていたが、畑氏たちは自分たちとは違うやり方で、しかも結果を出していたことに驚いたとも語っている。
『魔法少女ノ魔女裁判』は2025年7月にSteamで発売され、2026年2月時点で50万本に達している。Nintendo Switch版は2026年7月9日に発売予定だ。

対談では、Acaciaとジー・モードによる共同プロジェクトで、畑俊行氏がプロデューサーを務める2026年発売予定のRPG『配信少女ノ裏垢迷宮』にも話が及んでいる。同作は、ガールズバンド“ラグドロップス”のボーカル・ネオンの死をきっかけに、少女たちがSNSの闇が具現化したダンジョンへ引きずり込まれる物語だ。発売前には“ラグドロップス”のライブ配信が行われ、その直後に「メインボーカルが死亡しました」と発表されたという。畑氏はこれについても、作品世界に入るきっかけを作るために考えたものだと説明。ただし、読み物としてそのまま話がつながっているわけではないともしている。
そして畑氏は、『魔法少女ノ魔女裁判』で使ったやり方について、当時は本当にゼロから作品を認知してもらうための手法だったと振り返っており、今はまたやり方が変わってくると思うとも話している。



